Aki

夜明けのすべてのAkiのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.6
何か劇的な出来事が起こる映画ではないが、静かな語り口に感動。


登場人物が過剰に感情を表現したりせずにエモーショナルに振りすぎなかった点は、テーマに対して誠実であると感じた。
2人が恋愛関係になっていないことも良い部分。必要以上に説明をしない作品だけにそこをセリフにしてしまうのは……という気もするが、逆に言うとそれだけ誤解されたくない必要な箇所だったのだろうな、とも。
登場人物の周辺に、様々な多様さが背景として特に説明なく置かれている様子も良かった。


各ポイントでコミュニケーションが雑な山添が度々笑える。社交辞令だとしてもありがとうくらい言えよ。心を閉ざしていて諸々鬱陶しがっているのだろうけど、そのひどさが愉快。大概失礼。
対して、藤沢の仕事を離れた日常での掴みどころの無さも面白い。

あと、パニック障害とPMSを同列にしないでくれと反論してるシーンにはめちゃくちゃ気まずくなった。でも、その後ちゃんと両人(特に山添)が相互に理解をしようとする態度が良い。

山添が会社のジャケットに着替え、進まないエアロバイクから乗り換えた自転車で藤沢の家へ坂を登ったり降りたりする場面が、山添の変化を表していて観ていて気持ちよくなるシーンだった。坂の登り降りは本作では度々出てくる場面だが、特にこのシーンがハイライト。


挿入される風景や空間の映像が常に美しいフィルム表現。

明暗がとても印象的で、山添は、はじめは遮光カーテンによって自然光を遮っていたが、髪を切るシーンで藤沢によりカーテンが一気に開かれ、同時に散髪の失敗で大笑いするシーンは観ているこちらも楽しくなるし、その後の映画全体のトーンも変わった。個人的にグッときたポイントだった。
また、昼夜と雨が降っていることも含めて対になっている冒頭とラストがよい。また、状況は良くなってきたようであるとは言え、モノローグで挟まれる山添の部屋が薄暗いままであるのも印象的。


夜は暗く、先の見えない状況には孤独を感じることもあるが、暗闇だからこそ気がつくことができる星の存在。


Hi'Specの音楽も良かった。三宅監督の音楽の趣味方向が個人的な嗜好ともハマって好き。

あと「ケイコ」でも感じたが、今作においてもエンドロールがやっぱり最高。登場人物たちの生活は閉じずに、映画が終わったあとも続いているような気持ちで観終わる。なんとも素晴らしい。


唯一、現実がこの映画で描かれているほど優しくないだろうという意識は持たなければいけないと感じた。(悪いというわけではなく)理想化されすぎている部分はある。当事者の方には本作がどう観られるのかは難しいところがあるのかなと思う。

でも、(現状では)当事者でない自分が他人に対して理解をする事で優しい態度で接することができるようになりたい。そういう気持ちになれる映画だった。
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