ルカ・グァダニーノ作品は前作『ボーンズ アンド オール』と『君の名前で僕を呼んで』の2作の過去作を観ていたが、今作は何と言うかめちゃくちゃバカみたいに弾けてて、良い意味で期待を裏切られた。潔さを感じてしまうほどに、あまりにもあけすけに欲望をブチまけてプリミティブな次元の感情にまで突入した結果、「欲望」と「愛」との境界線を引き裂いて、その向こう側へ爆進していったんじゃねえかと思うようなハイテンションかつエネルギッシュな魅力を持つ作品で、笑いながら楽しく観た。そして最も感じたのは、今までのゼンデイヤは何だったのだ、と思ってしまう程に本作のゼンデイヤが途方もなく魅了的だったということ。ジャレ合い男たち2人には悪いけれど、タシの人物をあれだけアメイジングに作り込んでそれをゼンデイヤが体現した時点で優勝。テニスをプレイする姿も、キスし合う男2人をまなざす挑発的な表情も、夜の車内でブチ切れて喚く姿も、そして1人だけボールを追って首を動かさずに真っ直ぐな視線を向けてくる姿も、あの長い四肢の優美さと艶かしさも相まって、俗っぽいエロさではなく品のあるエロティックさをまとっており、延々と画面を観ていられる美しさがあった。そして、スコアの存在感がキャストや映像の技巧に勝るとも劣らないくらいに非常にデカかった。グァダニーノ作品の音楽は過去作も印象に残っていて、『君の名前で〜』の劇中とエンディングで使われていたスフィアン・スティーブンスの楽曲はめちゃくちゃ最高で、サントラをヘビロテした覚えがある。特に暖炉の炎を見つめながら涙を流す美麗シャラメを長回しで捉えたラストに乗せられた楽曲「Visions of Gideon」が情感に溢れていて脳裏に刻まれた。この作品の時はアコースティックなアプローチで、次いで『サスペリア』は未見だがトム・ヨークだった。そして『ボーンズ アンド オール』で今作と同様トレント・レズナー&アッティカ・ロスという布陣。『ボーンズ〜』は「人肉食」というテーマもあって、時折不穏さを感じさせつつも割と大人し目ではあった。が、しかし今作は一転して、1杯飲んだだけで頭痛がしそうなワケ分からん青色のアルコールを飲みながら踊り狂うダンスフロアに爆音で鳴ってそうな、ある種暴力的なチャラさを感じさせるテクノを軸にしていて、そこに最もブッ飛ばされてしまった。急に鳴り出したりブツっと切れたりするビートは、欲望の唐突な起動と急激な“萎え”もしくは意図しない強制終了に呼応しており、あのハッチャケた強靭な劇伴が、飛び散りまくるビッシャビシャの汗の水滴とそれを捉えるコッテコテのスローモーション演出をがっしり受け止め、それらがまとまってえも言われぬ抗いがたい興奮を生んでいた。冒頭のシーンで、低音のビートがスピーカーを爆音で震わせた時「弾けてる方のトレントレズナーきたーーーー」と大興奮したのであった。