きざにいちゃん

アナログのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

アナログ(2023年製作の映画)
3.5
恋愛の御伽話である。至純で繊細かつ透明な、人間の欲や醜さの混じり気ゼロの、崇高なラブストーリーである。
波瑠演じるみゆきさんの、清らかで可憐かつミステリアスな美女というキャラクターを嫌いな人は少ないだろうし、ニノ演じる誠実で爽やかな悟の好感度も高いだろう。
明るい愉快な親友たちの配置、人生の機微を深く知りながら多くを語らずに微笑むカフェのマスター、センスのいい落ち着いた街、森、海などの舞台装置も美しく、おまけにアコースティックで優しい劇伴が、ヒーリング効果を増幅させる。
だから見ていて心地よくない訳がない。
「ああ、いい映画だなぁ〜」と感じてしまう。

が、何かが引っかかる。
見終わった後、少し冷静に考えてみると…

例えば、シナリオコンクールや文学賞にこのシナリオなり原作が出されたら、絶対に入選しない。どこで見た既視感の塊であり、古臭いからである。
都会で疲れた主人公が田舎に帰り、自然の中で昔ながらの温かい人間関係に触れて立ち直り、新たな一歩を踏み出して歩き出す、という感じの素人にありがちなお決まりパターンがあるが、それに近いのである。

「アナログ」というタイトルも、個人的には違和感がある。恋愛の美しさの本質に、デジアナは関係ないはずである。
美しい恋愛の温もりは必ずしもアナログの暖かさと同じではない。デジタルツールがなく連絡が簡単に取れなかったアナログ時代のもどかしさやワクワクも、一種のアナログ懐古に過ぎず、「デジタルによってアナログの良さが忘れられている」と言ってしまうのは、認知の歪みである。
ことさらに悟を模型や手料理に拘るアナログ嗜好キャラにするのも、物語の作り手都合であざとい。

だから、この作品は見ていて心地はいいのだが、深みがない。みんな(特に一定の年齢以上の者たち)が好きそうなものを散りばめた綺麗な作り物というのが正体なのではないだろうか。
綺麗すぎるものは疑ってみないと騙される。

ビートたけしがこの原作を書いた意図は知らないが、海外の映画賞で注目を浴びていた頃の彼なら、こんな小説は書かなかっただろうと思った。ただ、もし彼が確信犯としてこれを書き、世間の反応をみて嗤っているなら、まだまだたけしは健在である。