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ブルックリンでオペラをのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ブルックリンでオペラを(2023年製作の映画)
3.4
 タイトル通り、ニューヨーク、ブルックリンでスランプに陥っていた現代オペラ作曲家である夫スティーブン(ピーター・ディンクレイジ)が、掃除が大好きな潔癖症の精神科医で、パートナーでもあるパトリシア(アン・ハサウェイ)に促され、外の世界に飛び出すまでが物語の前段なのだが、何かがおかしい。というか明らかに変だ。長年スランプに陥っていた主人公がSEX依存症の女性と出会い、久々に天啓が迸るというこの映画を我々観客は素直に笑って良いのだろうか?彼の勃起不全を回復させるのはユニークでエキセントリックな船長のカトリーナ(マリサ・トメイ)なのだが、その船は船舶や水上構造物を押したり引いたりするための船、つまりタグボートであり、毎日決まったルートしか通らず、ここではないどこかへと旅に出ることもないのだ。つまり今作にはアメリカ映画的な動線があらかじめ忌避されている。部屋に閉じこもるスティーブンも彼にもう一度奮起して欲しいと望むパトリシアといつも同じ空間に居るのだが、結局は彼女には夫の才能を蘇らせる手立てがなかったという悲しい展開になる。

 然しながら主役でも端役でもどういうわけか彼女を中心に世界は回るというのが女優・アン・ハサウェイの凄味だろう。彼女の化粧が醸し出す構築する美しさは今作でも完璧で、あのお人形のような美しい白いお顔が思わず顔面蒼白になるべき場面で顔面蒼白なる辺りはライトなコメディでは最高に神懸っている。名優だったダニエル・デイ=ルイスを夫に持ち、父は劇作家のアーサー・ミラーという良家に生まれたサラブレッドのレベッカ・ミラーもまた人生の黄昏期に差し掛かり、思わず2回り下の役者陣を起用し、このようなアンニュイで半径数mの物語を描いたのだろうが、彼女の作劇はニューヨーク時代のウディ・アレンやノア・バームバック、ウェス・アンダーソンと比べても遥かにメランコリックでアンニュイで、色はついているのにどこか暗い。ウディ・アレンの『アニー・ホール』とノア・バームバックの『フランシス・ハ』の中間をやりたかった彼女の目論見はわからないわけではないが、若いカップル以外が悉く暗過ぎる。ロマコメというよりこれはジャンル映画としてはかなり歪で変な映画である。
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