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SISU/シス 不死身の男のRのネタバレレビュー・内容・結末

SISU/シス 不死身の男(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

映画館で友人1人と。

2023年のフィンランドの作品。

監督は「ビッグゲーム 大統領と少年ハンター」のヤルマリ・ヘランダー。

あらすじ

1944年第二次世界大戦終わり頃、ソ連に侵攻され、ナチス・ドイツに国土を焼き尽くされたフィンランド。荒野を旅する老兵アアタミ・コルピ(ヨルマ・トンミラ「レアエクスポーツ〜囚われのサンタクロース〜」)は、愛犬ウッコを連れ、掘り当てた金塊を運ぶ途中、ブルーノ・ヘルドルフ中尉(アクセル・ヘニー「ザ ・トリップ」)率いるナチスの戦車隊に遭遇、敵は大多数の中、「ツルハシ一本」と「折れない心=SISU」を持ったアアタミがナチス相手に立ち向かう!!

どっかのサイトの記事で読んでから、ずっと気になって、ようやく、ようやく興味を持った友だちと鑑賞!!

結論としては悪くはない!つか、惜しい…作品でした。

お話はあらすじの通り、もはや映画のジャンルにおけるトレンドの一つと言ってもいいくらいの「舐めてた相手が殺人マシーンでした映画(©️ギンティ小林)」。

で、今作の殺人マシーンはなんとおじいちゃんだというからそれだけで面白い。まぁ、ただおじいちゃんと言ってもヨボヨボというほど歳はとってはいなくて、高齢期入りたてって感じではあるけど、まぁ見た目は薄汚いおじいちゃんです。

演じるのはヨルマ・トンミラさん、どうやら監督とは一作目の「レアエクスポーツ」や面白かった記憶がある2作目の「ビッグゲーム」に続いて、3度目のタッグということで、お気に入りの俳優さんということなのかな?いい具合のおじいちゃん加減でまぁピッタリ。

そんなおじいちゃん、どうやら金鉱掘りを生業としているらしく、愛犬ウッコと愛馬と一緒に細かい砂を洗い出してちいちゃな金一つで「うぉぉぉ!」となっちゃう慎ましい生活を送っている。

ただ、そこはやはり第二次世界大戦下、慎ましく生活をしている遠くの方では日夜爆音が鳴り響き、戦火に焼かれて煌々と空が光るのを見つめるショットなんかもあったりする。

で、そんなある日、いつものように金を見つけるべく、穴を掘っていたおじいちゃんはなんとでっかい金鉱を掘り当て(つか、落とし穴ぐらいの深さで見つかるもんなんか?)、ホクホク顔で愛馬に跨り、道中を行っていると、そこでなんと憎きナチスの戦車隊と遭遇、そこからおじいちゃんによる大殺戮が始まるわけなんだけど…。

今作、作りとしてはまさに「舐めてた〜映画」のお手本のような王道的な作りが特徴。

おじいちゃんがその戦車隊とすれ違うと、兵士たちはにやにやしながら、その老いぼれ具合に、まさに「舐めて」見ていて、その一団とは「あんなやつここで殺さなくてもどうせ死ぬ」と戦車隊のリーダー、ブルーノ中尉にまで見逃されて、難を逃れるんだけど、その後の別働隊には載せてる金が見つかってしまい、戦いが始まり、いざ戦闘が始まるとひとつきで敵の頭にナイフを横から串刺し、そこから敵が持っていた銃で素早く腹部を複数回撃って倒し、そのまま敵の死体でガードしながらもう1人に近づいてヘルメットでオーバーキル!!鮮やかなまでの殺人マシーンテクに先頭を走っていたブルース中尉が「なんだなんだ?」と後戻りするとそこには死体の山が。そこに落ちていたドッグタグのナンバーをブルーノが拾って、本部に報告すると、なんとそのおじいちゃんとは伝説の特殊な部隊隊員であり、かつて「不死身」と呼ばれていたり、「ロシア人兵士を300人殺した」という逸話があったりとするという話を聞いて狼狽えるという、もうここまでの流れが、まさに「舐めてる〜映画とはこういうものです。」という教科書を読んでいるかの如く、とにかくここまでの流れが綺麗すぎる、お見事。

で、序盤の瞬殺シーンから始まり、追っかけてきた戦車隊から馬に乗って逃げているうちにたどり着いた地雷原での緊迫感ある戦いが前半の白眉。戦車隊と直接対峙して、馬も地雷で盛大に爆散してしまい打つ手なしかと思われる状況下にも関わらず、地雷に石を当てて目眩しをしたり、先攻で向かってきた兵士に地雷をぶん投げて爆散させたりする。

で、ここらへんはグロ描写もかなり頑張っていて、地雷で爆散する際、ちゃんと爆風と共に血肉が飛び散って、そこら辺に肉片だったり、手足や臓物が撒き散らされていたり、おじいちゃんがその場から消えた後、ブルーノが先行した兵士に続いて、今度は両側から行け!と2名選抜して送り出すんだけど、ヒイィ…!と怯えながら足早に駆け出した2名がおじいちゃんの攻撃の有無に関わらず、1人がドカーン!その後にもう1人がボカーン!そんでそいつの飛び散った手足に触れた地雷がまたドーン!とどんだけ埋まってんだ!ってくらいそこかしこで爆発を巻き起こして、それをただ真顔で見つめる戦車隊のショットがシュールすぎて笑っていいのかなんなのか…とにかく面白かった。

で、地雷に石を当てて目眩しもそうだけど、このおじいちゃんパワープレイだけでなく、さすが長年戦場に身を置いた老兵ということでちゃんと頭を使った戦い方も描かれていて、その後に負傷して休んでいるところを戦車隊が犬を放ってバレそうになるところを戦車隊のトラックの裏側に咄嗟に隠れてガソリンを漏れさしてその匂いで犬の鼻をダメにしたり、追われた先の湖では浮かんだ先で敵が待ち伏せしている状況下で潜っていて息ができないところを潜ってきた兵士の喉元掻っ捌いて、そこから漏れる気泡で空気を摂取したりとほぉ!となるシーンも多かった。

特に観ている時は分からなくて、後から友だちに聞いたんだけど、中盤、ついにブルーノたちの罠にハマり、捕らえられて首吊りさせられるんだけど、わざわざ撃たれた足で開いた穴に首吊りされている柱から突き出たボルト?を刺して何してんの!?と思ったら、あれ足に重心置いて首の負担減らしてるんだってね、なるほどなぁー!!「不死身」という異名にもそれなりの理由があるわけだ。

まぁ、それにしたって説明がつかない「不死身」描写もめちゃくちゃあるにはあるんだけど。銃を撃っても死なない、地雷で吹っ飛ばされても死なない、首吊られても死なない、飛行機が墜落しても死なない!どうやったら死ぬんだよ!ってくらい不死身なのは他の「舐めてた映画」よりすごい。下手したらジョン・ウィックより死なない笑。

とこんな感じで全体的には面白く観れはするし、その日の最初に観た「ドミノ」に続いて、更に短い91分とかなりタイトではあるんだけど、やはり今年は「舐めてた映画」の二大巨頭「ジョン・ウィック」と「イコライザー」の続編があった分、相手が悪すぎる。描写としてはグロ多めでもどこかソフトで物足りなく感じてしまったのが正直なところ。「ジョン・ウィック」から割と期間も空いていないのもあって、やはりこういう映画はある程度スパンを置かないと比較して自然と優劣をつけがちになってしまうよなぁ。今作が悪いわけではないんだけども。

まぁ、でも全体的な雰囲気も良いし、「R R Rに対する、これがフィンランドの答えだ!」という予告の宣伝通り、映画的なドアップのショットや所々、間をたっぷりととった溜めであるとか、「うーーーん(唸り声)」みたいな音楽の使い方はインド映画的だし、黄色いフォント文字でチャプターごとに章立てた感じなんかはタランティーノの「イングロリアス・バスターズ」風味だったりと色んな映画のミクスチャーも良いスパイスとして効いてる。また、映画的な決め絵ショットも満載で戦車隊と地雷原で対峙するショットだったり、後半、ずっと囚われていた現地の女性たちがおじいちゃんの勇姿に感化されて遂に銃を持って立ち向かい、終盤、序盤で性奴隷にされていた復讐とばかりに二番手ポジの副将クラスのやつの前に横並びで銃を持ってゆっくりとこちら側に向かってくるショットがとにかくカッコ良すぎ!!

そういう意味ではガールズエンパワメントな描写もちゃんと描いていてすごく良かった。

他にも愛犬ウッコの忠犬ぶりや飼い主に似て全然死なないところとかブルーノの最期がギャグすぎて笑ったところとか(ちゅどーん!という効果音が聞こえてきそうな、あまりにも特撮すぎる爆煙!!)、一貫してセリフなしだったおじいちゃんが最後の最後に発言するセリフが全然かっこよくなくて、一気に現実味が押し寄せるラストとか、まぁ可愛げがあるというかなんというか愛すべき作品であることは間違いない。

タイトルにある「SISU」とはフィンランド語でも形容できない説明不能な言葉らしいが、何をしても死なない、どんな状況下でも諦めない不屈のおじいちゃん、劇中で虐げられる女性の1人が「彼は死なないんじゃない、死のうとしないだけ。」という言葉が著しているように、アアタミの心はまさしくSISUそのもの。こんな映画をライバルも多いこの時期にぶつけてきた作り手や手の込んだパンフやその他宣伝に力を入れてくれた日本の宣伝部の気概含めてSISUに溢れたこの作品、是非皆さんも劇場で!!
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