べし酒

碁盤斬りのべし酒のレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
3.7
鑑賞後に、落語の「柳田格之進」という噺から着想された映画だということを知る。

昔は時代劇に全く興味持てなかったが、特に映画に関しては歳を取るに従い面白く感じる様になってきた。それは様式的な面白さなのかなと。

作品によっては現代的なテーマが盛り込まれることもあるけど今作では特に感じず。強いて言えば「水清ければ魚棲まず」的な柳田の生真面目過ぎる生き方が敵を産んだかもとか、ケチケチネチネチしていた源兵衛に友が出来たことで余裕が生まれて商売繁盛したみたいな教訓話としての受け取りぐらい。でもそこの作劇が結構面白い。

前半での柳田と源兵衛が碁を通して親しくなる様子への結構な尺の費やしは個人的にかなりほっこりとした気分になれた。更に弥吉とお絹の淡い感情の表出もお約束でこそあるが、共に若き善良な人として描かれていて応援する心持ちとして心地良く。

転からの明らかになる柳田の過去と、疑われる50両の行方。これも観客側には柳田の事情と無実がハッキリしているので、後は仇討ちを成し疑いが晴れる展開を期待するのみという様式。ただ娘のお絹の結果に関しては身を落とす悲劇的な展開も有り得るため、映画的にもクライマックスへの牽引となり得てはいるかな。
まあ現代的な感覚で言うと、盗ってもいない50両を用立てて返すことが武士の誇りという部分は全く意味が分からず。鑑賞後のネットでの補完だと、疑われて奉行所で取り調べを受けることが恥ということらしいけど映画ではそこまで掴めなかったな。

見事本懐を遂げた上に冤罪も晴れ、残るはお絹の行く末。大晦日が過ぎ元日の借金返済で、ここまで優しさと厳しさを併せ持つ深みのある人物像を好演の小泉今日子さんが演じるお庚がさてどう出るのかなと興味を持って観ていたが「期限?そんな物知らないねぇ」というサクッとした言葉には拍子抜け。まあこれも様式の内ですかね。

まあそれを言ったら、源兵衛と弥吉の首の代わりに斬る物がもうタイトルからバレバレなのも様式、というか元の落語を知っていれば全部分かってますよねという前提なのかな。

白石和彌監督は時代劇初めてなのかな。でも意外に良い絵面が撮れているなぁと感じたよ。

全体的に飛び抜けての興奮度は無かったけど、存外楽しめた作品でした。

【追記】
柳田が探し求めた柴田をやっと見つけた時に負ける可能性もある囲碁での勝負を申し出たのは、もちろんその場で刀を所持していなかったことも一因ではあろうけど、自分が清廉潔白で実直であろうとするが故に苦しむ人がいたという事実と、だからそんな柳田を許せないと語る柴田の言葉にも一理を感じて、己と柴田それぞれの信念の象徴としての囲碁でその生き方の正誤を測ろうとしたのではないのかな。
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