細谷しゅうへい

窓ぎわのトットちゃんの細谷しゅうへいのネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

本当に素晴らしい価値のある作品だった。
原作未読で事前情報入れなかったから展開は分からないのに、最初に校長先生がトットちゃんを抱きしめて君は本当は良い子なんだよって言ってくれた時、なんだか分からないけど涙が止まらなかった。

戦前の和洋折衷建築で煌びやかで束の間の豊かな時代が美しく、その分この全てがこの後起こる戦争によって壊されてしまうことがやるせなく苦しかった。

泰明君は、読書家でたくさん知識を知っているから自分の病気が治らないことも死期が近いことも知っていたんだろう。
だからトットちゃんに腕相撲で手加減されたことが許せなかったし、トットちゃんとは全てを曝け出して無邪気な愛の幸福な時間を過ごしたかったんだろうな。
トモエ学園のみんなは心優しいから泰明君を馬鹿にしたりはしないけど、泰明君は自分の身体に引け目を感じてるからトットちゃんの強引な優しさに救われたんだろうな
泥だらけになるまで木に登る事に挑戦して、木の上の涼しさとそこから見える景色を目に焼き付けて…

トットちゃんがお祭りで買ったひよこは泰明君と重ねたんだろうな。
泰明君はトットちゃんにひよこは幸せだったと思うのような事を言っていたけど、
自分は弱い身体で檻に入れられて空を飛べなかったひよこと
同じく弱い身体でも自由なトモエ学園でトットちゃんと力いっぱい生きた泰明君との対比だと思った。
檻にはひよこの羽が沢山付いていてきっと外に出ようと何度も試みたのかなと。


戦争の空気が強くなって、他校の生徒がトモエ学園を揶揄いに来た時、トットちゃんや泰明君がトモエ学園いい学園って追い出した時の校長先生の後ろ姿が忘れられない。
心血注いで作った愛に溢れるトモエ学園が戦争によって、その全体主義の空気によって何もかも壊されて
戦争が人の命だけではなくどれだけのものを破壊するかをひしひしと感じた。

この作品でも戦争に突入する前の空気はのびのびとしていて皆が朗らかで清々しくて、でもいざ戦争に入ると贅沢は敵で皆がひもじい思いをしなければならない。

少し前と社会の空気が変わってきていることを確かに感じるこの頃、もしかするとトットちゃんで描かれたように現代は時代が大きく変わってしまうタイミングなのかもしれない。
その警笛と込めた映画だと思う。

現代が当時と違うのは、情報の自由度にある。偏った都合の良い情報に惑わされずに客観的に社会を見つめ続けたい
そして社会全体の思想が変わってきても自分が愛したい人を愛したいと思う。