ユカコ

さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのユカコのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

第二次世界大戦〜文化大革命ぐらいまでの激動の中国で、京劇という芸能でしか生きる術を見出せなかった虞姫役の女形役者、程蝶衣と、その相手覇王役を務める段小樓の生き様を描いた3時間近いすばらしい大作。歴史の波の中で、ただひたすらに京劇と段小樓へ身も心も捧げるような程蝶衣が、その京劇「覇王別姫」の物語の悲劇とどんどん重なっていって、たまらなく苦しく切ない(正直、ラストはああなるだろうとは勘づいていたけど)。京劇の美しさ華やかさがきな臭くなっていく中国の世情といっそう対比となって際立って、目を奪われる。この2020年代の日本に生きていると、思想も行動も基本的には自分の自由になるけれど、当時は権力側の為政者によって市井の人はどうにでもなった。生きるためには、誰かを貶めることさえ簡単だった不信の時代の悲惨さ。そこを生き抜こうと必死だったからこそ、程蝶衣がアヘンに溺れたことも段小樓が裏切ったことも、そして菊仙があの最期を遂げたことも、大なり小なりあのような人たちが実際にいただろうと想像に難くないし、どうしようもなくリアルに身に迫ってくる。観てる間ずっとひきこまれて3時間なんてあっという間で、同時に日本が占領したという歴史にもいやおうなしに直面させられるから、自分たちの過去につながる世界線としても深く考えさせられる。これって結局、ウクライナとロシアのこと、アウンサンスーチー女史のことを思い出せば今も変わらない構図で世界のどこかにある。そう思うとたまらなく平和ボケしてる自分が情けなくなってきたりもして、すごく余韻が複雑になった。それにレスリー・チャンの生き様もまたこの映画に与える観る側の感情を揺さぶってきて、本当にいたたまれない。
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