舞台衣装と化粧に身を包んだ蝶衣の眼差し、目の色、所作、歌声は到底この世のものとは思えず息が止まりそうになる。目が離せない。蝶衣のその眼差しは目の先にいる小楼に突き刺さるかのようだ。
もし自分の愛する人が他の誰かと添い遂げることになったら一体どうしたら良いのだろう。その人の存在が自分の人生に無かったことにして生きる？怒って暴れる？正直なところ薬物で騙し誤魔化し暮らすか、死しかないのではと思う。
だけど、私生活よりも京劇で小楼が別の誰かと演じることの方が蝶衣にとって許しがたいことなのではないだろうか？別の誰かが覇王(小楼)と『霸王別姬』を演じているなんて激昂してしまう。
原題の『霸王別姬』に『さらば、わが愛』という素晴らしい邦題を加えたのは名案だろう。だが、愛に別れを告げる方法など一体この世に存在するのだろうかと疑問に思う。究極的な話、相手もしくは自分を葬っても「別れ」を告げられるのか私には正直分からない。
