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ミッシングのmozzerのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
3.8
石原さとみの演技が良くも悪くも強烈すぎる映画。今作でこれまでのイメージを払拭したいという彼女の想いがストレートに現れていたし、切羽詰まった主婦感を出すためにすごい努力したことが画面から伝わってくるのがわかる。しかし、観るものによっては、ちょっとやり過ぎ、というかあの演技にリアルさが感じられない人もいたのではないか。個人的な感想になるけれど、私にはそのように見えてしまい、最後までその思いは消えることはありませんでした。

日本映画を観るとき、よく今回と同じような演技に対する変な違和感を感じてしまうのはなぜなのかといつも考える。それはやはり演技が下手とかではなくて、例え映画であっても、その作品の中でのリアルさというものがあると思います。そのリアルさは、俳優が思うリアルさであり、その演技にOKを出す監督のリアルさでもある。そして、観る側のリアルも当然人それぞれ違う。

本作の石原さとみの演技について考えてみると、彼女はリアルにこだわりすぎたんじゃないかと思う。今回相当な覚悟を持って挑んだことは演技からも明白でとても素晴らしかったが、彼女なりの徹底したリアリズムの追及が観客にはどうしてもやり過ぎに見えてしまい、引いてしまった人もいたのではないかと思う。あのような感情的な演技を際立たせるには、落ち込むといった反対の感情を対比に使えばより効果的だったのではないかとも思う。不自然に見えて仕方がなかった。夫役の方は凄く自然に見えて良かったので、余計にやり過ぎ感が増していたかもしれない。

それでも印象的なシーンは2つあって、ひとつは心無いイタズラ電話に失望して取り乱すシーン。あのなんとも表現しがたい感情や想いがあの叫びに見事に表現されていたと思う、本当に絶望感や天国から地獄に突き落とされた感が物凄く伝わってきて圧倒された。衣類を汚すところも後ろ姿だっので本人が演じているのかはわからないが、そこまでこだわって演じたのであれば彼女のこの映画に対する意気込みが生半可なものではないということがよくわかる。

ふたつ目のシーンは、やっぱり最後のチラシ配りで2人の気持ちを理解してくれる人からの申し出に、思わす涙してしまう夫とそれを見守る妻のシーンでした。あれは本当に夫婦の気持ちがよく表れた名シーンだったと思います。特に夫役の方の演技が素晴らしかった。

ストーリーについては、どうしても大阪熊取町の少女失踪事件を思い出さずにはいられない。というかそのものだと思う。未だに発見されていない少女を思うと本当に悲しいし、両親の想いなんて誰が本当に理解できるだろうか。ネットの誹謗中傷やマスコミの扱いなども、今でも続いていることばかり。そんな常に切羽詰まった状態に置かれている人間に、心無いイタズラなんて本当に許せないことだし、実際に起こっていることなのだろうと想像させるには十分な説得力がありました。ただこの映画を当事者の方々が観たときまたは、内容を知った時、どう思われたのだろう。それが少し心配になった。

やっぱり当事者家族以外の人にとっては他人事で、どのような事件事故であっても時が経てば忘れられていく、ということをつくずく考えさせられた映画でした。
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