ぬぬ

ミッシングのぬぬのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.5
わたしは石原さとみの大ファン。
だけど、この映画は"石原さとみ作品"と思って見ないでほしい。

吉田監督作品として見た結果、主演である石原さとみの演技がすごい、と言いたい。

石原さとみ苦手だなという人にこそ見てほしいし、石原さとみが大好きな人にはいったんそれを忘れて見てほしい。

折り合いのつけられない人たちが、その先をどう生きていくかがテーマ。人間描写の鬼と言われる吉田監督作品だけあって、細かな描写。どのキャラクターもモブで終わらない良さがあった。

-----ここからネタバレを含みます-----



















至るところに共感ポイントがあって。
例えば三谷さんが駒井を褒めながら「砂井さんの後継者になりたい」と無邪気に言うようなところ。あるよね〜!なーんもわかっちゃいないよなあ!やるせない!

飲み会でマジレスして空気が凍るシーン。あるある。大事なこと言ったんだけどなあ。伝わらんなあ。(ちなみにアドリブの多いシーンらしい)

お節介おばさんが良かれと思って占い師を勧めてくるところ。う〜ん!ナイスお節介!優しい気持ちは伝わる!

わたしは前作「空白」でも随所に散りばめられた対比がおもしろかったんだけど、今回も対比されていたと思った。男女対比とか。

追い詰められながら必死で娘を探す沙織里と、冷静さゆえに何もしてないように見える豊。温かい女と冷たい男の構図(実際は違うけど。豊は豊なりに動いているし、ショックを受けている)

印刷所ではこれが逆になっていて。利益を考えて渋る妻と、こっそり協力してくれる夫。冷たい女と温かい男。

他にもいろいろ。ベラベラ喋る犯人と、寡黙であやしいけど本当は人一倍責任を感じている弟。

つらいテーマながら映画は意外にも淡々と進む。特に前半は大きな動きはなく、ひたすらつらい。それぞれの心情が少しずつわかってきて、中盤以降に話が深まっていく。

監督は「折り合いがつけられない人たちがどうやって生きていくか。それには沙織里自身が変わって、自発的になる必要があった」と語っていた。

「砂田さんの言う通りにすれば、娘は絶対見つかる」という依存から、他の行方不明事件の情報提供収集に動いたり、地域の子どものためのボランティアに参加したり。人のために動き、他人の幸せを喜び涙する姿は、じわりと状況を変えていく。

ずっと冷たく見えていた豊。実際はビラを置いてもらえるように頼んだり、誹謗中傷の訴訟に動いたり、家族のために動いていた。「俺は頭が悪いから、どうしたら良いかよくわからないけど、なんとかしたい」というセリフには不器用ながら妻を大切に支える姿が見えた。

夫婦ははじめは良く手を重ねていて、それが徐々に少なくなっていた。沙織里の行動が人の心を動かしてそれがつながった時、この映画で初めて豊が泣いた。声を出して道で泣いた。石原さとみの表情。ああ2人はここから支え合って生きていくんだと思った。わたしはこのシーンが1番好きかもしれない。
(当初はこの後に実際に手を重ねるシーンが予定されていたらしい。上記のシーンで充分でカットとなった)

虹のシーン。とても美しかった。
あれは大きな気持ちの区切りだと思う。
娘の生存は信じたい。でももう2年経って、生きてはいないかもという気持ちはある。
ごはんは食べているか。つらくはないか。
虹の世界であれば、きっと今は苦しくはない。
これからだって探し続けるけれど、この狂った状況には区切りをつける。娘の不在に、もう生きていないかもしれないということに、向き合えたんじゃないか。

弟がずっと娘を探していたこと。自分を責めていたこと。沙織里が動画を送ったシーン。ここも、すごくすごく良かった。
ぬぬ

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