HAYATO

ミッシングのHAYATOのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.3
2024年189本目
心ない世の中に救いはあるのか
『空白』の吉田恵輔監督が、石原さとみを主演に迎えて現代社会の闇を抉り出す社会派エンターテインメント
ある日、街で少女失踪事件が発生。母親の沙織里はあらゆる手段で娘を捜すが、有力な手がかりも見つからないまま3カ月が経つ。世間の関心も薄れ、冷静な夫・豊とはケンカが絶えず、唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々。そんな中、美羽の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに行っていたことがSNSで知れ渡り、誹謗中傷の的になってしまう。
共演に、青木崇高、森優作、有田麗未、小野花梨、小松和重、細川岳、カトウシンスケ、山本直寛、柳憂怜、美保純、中村倫也など。
人間のおかしみや根底に眠るいやらしさを見せつける吉田恵輔節が今回も炸裂。オリジナル脚本でこれだけ質の高い作品をポンポン生み出せる人は今の日本映画界でそうそういないんじゃないかな。
かねてから吉田恵輔監督とのタッグを熱望していたという主演の石原さとみさんがとにかくすごい。1年9カ月ぶりに芝居に臨んだそうだが、そのブランクを全く感じさせず、最愛の娘がいなくなってしまった焦りと絶望、周囲への期待と怒りなど、いくつもの感情が複雑に現れる様子をパブリックイメージとはかけ離れた表情と声色で体現している。これぞ鬼気迫る演技。
また、事件を追う記者を演じた中村倫也さんもすごい。組織の方向性と自身の信念との間で板挟みになり、ジャーナリストとしてのあり方にもがき苦しむ様を抑制した演技で魅せる。他にも、夫役の青木崇高さん、弟役の森優作さんをはじめ、リアリティ溢れる出演陣の熱演が本作の見どころの1つであることは間違いない。
物語は、主人公の娘が忽然と姿を消すところから始まる。その後、被害者であるはずの主人公を中心とする人々が見舞われるのは、あまりにも理不尽な試練の数々。事件を視聴率を獲るための材料として扱うマスメディアと、心ない誹謗中傷が満ち溢れるSNS。彼らを取り巻く状況は現代社会の有りようを浮き彫りにし、無責任な噂話や何気ないSNS投稿によって、誰もが誰かの加害者になりうるということを強く感じさせる。
この物語を「自分事」に捉えて教訓にしなければならないと思いながら現実世界に戻ってすぐ、暴露系インフルエンサーの起こした一波乱の渦中で「特定の誰かを無関係の他者が追いつめる構図」を目にしてしまって悲しい気持ちになった。もはや無法地帯になっているSNSの問題が解決される日は来るのか。便所の落書きはしばらく消えそうにないな。
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