タケル

ぼくたちの哲学教室のタケルのレビュー・感想・評価

ぼくたちの哲学教室(2021年製作の映画)
3.7
彼らが"哲学"する対象は、日常の中にありふれる小さな不安や怒り。その背景には歴史的に積み重ねられた分断があるという描き方がなされていたが、歴史や文化に関わらず"誰しもが直面しがちな課題"のようにも思えた。だからこそ、この哲学対話には、地域性や歴史性、さらには子どもと大人という区分を超えた応用可能性がある。

重要なのは、"何を問うか"ではなく"いかに問い続けるか"というあり方の問題であると理解した。分かりきっているように思えること、言ってもどうしようもないように思えること、それらを敢えて問い直し、言葉にして解き放つことで、自分から切り離された考えを"物として"冷静に見つめ直すことができる。また、放出された言葉に触れた他者との対話への可能性が切り開かれていく。

他方で、この映画が「哲学で万事解決!ハッピーエンド」とはならないように"問い続ける人"には特有の孤独や不安が付き纏う。絶対的な正しさを語ってくれる"指導者"の魅力には抗いがたいものがあるし、盲信し続けることができればある意味幸福だ。それに対して、"問い続ける人"は言い切らないし、存在として確定することがない。その行く先は、不安定で不透明なものにも思える。
ただ、一緒に問い続けてくれる人がいれば、不確かさを引き受けることの孤独は多少和らぐかもしれない。教室で語り合った彼らは、共に問い続ける仲間になっていけるだろうか。
タケル

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