このレビューはネタバレを含みます
非常に面白い作品だった。
世界遺産登録に合わせ、国立西洋美術館を設立当時の前庭の状態にできるだけ戻すというリニューアル工事期間に密着した本作。
前庭にある彫刻作品をどのように待避させるのか。
それをどのように運搬するのか。
工事期間中は停電作業を伴うため、作品を貯蔵するための空調も停まってしまうので、別の貯蔵スペースに移動が必要となる。
学芸員たちがそもそも何故この仕事を選んだのか。
日本人だが西洋美術のほうが先に入ってきたので馴染みが深く、逆に日本美術は後から認識したので馴染めない、という意見に非常に共感した。
作品は展示中、保存中、運搬中も常に劣化が進むため、どの辺りの絵の具が禿げてきたか、ヒビ割れがあるかなどを高精細カメラや肉眼などを駆使して徹底的に調べる。
他の美術館に貸出をする際、その傷がリストに載っていなかったら運送会社の責任問題に発展するので、そういった被害を防ぐ必要性もある。
彫刻作品の梱包は専門業者の人がその場で角度や長さを調整しながら木を切ったり緩衝材を組み合わせたり、臨機応変に対応をして木枠に詰める作業はまさに職人技。
国外の美術館に貸し出す際、実は日本にしかない特殊な緩衝材があるらしく、その梱包具合は日本の美術館の丁寧さをアピールする隠れた場所でもある。
展示会を行う際、当然お金がかかるのだが、その費用は美術館(というか国)と、ほとんどは新聞社やテレビ局のマスメディアに依存している現状。
フランスの新自由主義的な、自分たちで専門のスタッフを雇用して展示会を独自にプロデュースできる体制や予算確保は今の日本では実質不可能。
展示をする際の作品の配置や微妙な向きや長さはその場で搬入業者とミリ単位で調整をする。
早く国立西洋美術館に行きたい。