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ネクスト・ゴール・ウィンズのRのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2024年のイギリス/アメリカの作品。

監督は「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティ。

あらすじ

ワールドカップ予選史上最悪の大敗をしてしまった、アメリカ領サモア代表チーム。彼らは次の予選に向けて型破りな性格でアメリカを追われた鬼コーチ、トーマス・ロンゲン(マイケル・ファスベンダー「ザ・キラー」)を招集、チームの立て直しを図るのだが…。

先週は今年始まって以来の大豊作シーズンということで、とりあえず3本はクリアしたんだけど、やっぱ観たい作品はまだまだある!ということで溜まっていた有給を消化して平日に鑑賞してきた4本目はこの作品!!

監督はご存知「ジョジョ・ラビット」「マイティ・ソー ラブ&サンダー」の俳優でもあるタイカ・ワイティティ。

なんつーか、個人的な感慨だと「マイティ・ソー」2作目と「ジョジョ・ラビット」あたりはまだ評価されてたけど、ソー3作目「ラブ&サンダー」では主演のクリヘムの掌返し(あれだけ2作目の会見かなんかでワイティティの肩に寄り添う仲睦まじさがあったのに…)や観客の「ヒーロー映画疲れ」もあって微妙に評価が下がってしまったという印象。

ただ、個人的には好きな監督だし、「ラブ&サンダー」も普通に笑って泣けた作品だったので、ワイティティってどうなん?という印象を払拭する意味でも観てきました!

お話はあらすじの通り、実際にサッカーサモア代表がワールドカップ予選で起こした奇跡のような実話を元に映画化した「実話ベース」のスポーツ映画となっている。

サモアという国はwiki情報によるとポリネシアにあるサモア諸島の最西端に位置する島々からなる国であり、当時は人工わずか五万という小国。ちなみにハリウッド1稼ぐ俳優で元プロレスラーのドウェイン・ジョンソンことロック様も他の映画でサモアに縁がある俳優さんってのはみんな知ってると思うんだけど、彼自身はサモアの出身ではなく、彼のおじいちゃんがサモア系の出身ということでサモアの血をひいているということらしい。彼自身のトレードマークである左半身に大きく形どられたタトゥーはサモアの血をひく者としての主張、そういう意味ではアメリカ出身ではあっても、サモア愛が伝わってくる。

そんなサモアを舞台にした本作、まずはそのロケーションが抜群に良い!!ハワイとニュージーランドのほぼ中間に位置する南国ムードの島国で、雄大な自然を堪能でき、そこに住む人々も、みんな団扇を仰ぎながら、南国ファッションに身を包んでいて、どこかおおらかで人好きのする感じ。そして、照りつける太陽の茹だるような熱気がこちらまで伝わってくるような気候の中、島国ということで周り全て海海海ですぐにでも飛び込んで水遊びができそうな環境と、サッカー以外で劇中のキャラクターたちが摂取するココナッツミルクのマリネやジュースの美味しそうなこと!!

すげぇ短絡的だけど沖縄に行きたくなる笑!そんな印象!

で、そんなサモア、そのおおらかな気質もあるのか、出場したサッカーワールドカップの予選で、オーストラリア相手になんと31対0という予選史上最低の大敗を打ち出してしまう。俺自身この映画を観るまでサッカーに詳しくないこともあって全然知らなかったんだけど、コールドゲームの比じゃねぇ笑。これは選手の戦意も喪失するし、アナウンサーの「やれやれ…またですか。」な実況も押して図るべし。

で、その試合で60セーブという健闘をしたものの「世界一孤独なゴールキーパー」という汚名をつけられてしまったサモアでは伝説的なGKをはじめ選手は引退…。サモアチームもそれから10年間公式戦で一回もゴールを決められないまま時が過ぎてゆく…。

そんなチームに招集されたのが母国アメリカではその型破りな性格から幾度も解任されたトラブルメーカーの鬼コーチ、ロンゲン。

そんなロンゲンを演じるのがなんと、あのマイケル・ファスベンダーというから驚き!!

ファスベンダーといえばリブート版「X-MEN」の若かりしマグニート役でお馴染みだが、他にもリドスコの「プロメテウス」や「エイリアン:コヴェナント」の2作、「悪の法則」、そして昨年話題となったフィンチャーの「ザ・キラー」などそのクールで男前の顔立ちを生かした影のある演技で多くの巨匠に愛された俳優さんであり、どちらかといえばシリアスな印象を受ける俳優さんでもあって、こういうコメディを主体としたタイカ・ワイティティ監督のしかも「スポ根もの」に出てるってのはすごい意外!!

ただ、そこはやっぱファスベンダーが演じているということもあり、確かに異物感はあれど、鬼コーチ、ロンゲンというキャラクターを絶妙に体現している。初めはサモアという国の風土とそこに住むおおらかすぎる人々に辟易し、イライラしつつも徐々に人々の暖かさに触れ、やがてチームを立て直すために奮闘、監督として怒鳴り散らかしつつも、鼓舞する様はすごく新鮮ではありつつも、様になっていた。

つーか、白に近い金髪で性格的にも熱くなりやすいということで、なんかドイツの伝説的ゴールキーパー、オリバー・カーンにだんだん見えてくる笑。まぁそういう意味でも確かにサッカー教えるの上手そう!

で、そんなロンゲンが率いることになるサモアサッカーチームの面々も個性豊か。会長の息子にして攻撃的なチームの要ダルー(ビューラ・コアレ「デュアル」)、父親の名前はソニーでサモア語しか話せないMFサムスン(ヒオ・ペレササ)やアフロヘアーが特徴的なGKピサ(リーハイ・ファレパパランギ)、ロンゲンに職質中にそのキック力でまさかのスカウトを受け、チームに加入する地元の警官のランボー(セム・フィリポ)などみんな「いい顔」揃いの気のいい奴ら!!

特にチームのキーパーソンとなるジャイヤ(カイマナ)は「ファファフィネ」という性同一性障害とはまた異なるサモアの伝統的な文化に根差し、古くから尊重されてきた「第三の性」を持った中性的なプレーヤーで演じるカイマナという俳優さんも同じ第三の性を持つ俳優さんということですげぇ綺麗で華があって、本当に女性にしか見えない。

劇中でも初めは遅刻したりとあんまり熱意が感じられないように見えるんだけど、段々とチームのキャプテンとして周囲を鼓舞し、ロンゲンを支える軸となっていく。クライマックスの試合前、チームのために、ホルモン注射を止めてしまい醜くなることにショックを受けるのをロンゲンが励ますシーンも良いシーンだった。

あと、選手じゃないけど、サモアサッカー協会の会長でダルーの父親であるオスカー・ナイトリー(「ワイルダー・ピープル」)演じるタビタも良かった!!サッカー協会会長というと重役!みたいなイメージがあるけど、今作で彼が演じるタビタはチームも弱小で極めて立場も狭いからか、負けて他の国の協会会長から顔中におっぱいの落書きをされてしまったり(しかも、油性笑)、とにかく金がないのでチームの運営資金のために、サモアのテレビカメラマンや酒場経営をしていたりと兼業に次ぐ兼業でまるで威厳がない。ただそんな憂き目をものともしない圧倒的ポジティブさでチームとロンゲンを鼓舞し、暖かい言葉をかける様がものすごくステキだった。

個人的にはクライマックスのトーガ戦でチームの体たらくに激昂し、飛び出してしまうロンゲンに「負けてもいい、ただ一人で負けるな、みんなで負けよう!」と仮に負けても誇りを持って最後まで胸を張ろうと言葉をかけるシーンはマジでこの人が監督でも良かったのでは?と思わずにはいられない圧倒的いい人感だったなぁ。

他にもロンゲンの前任の極めて頼りないコーチ、エース(デヴィッド・フェイン「イーグルVSシャーク」)とかロンゲンに懐くチームのマスコット的な地元の少年もナイスキャラだったし、何気にロンゲンの奥さん役でエリザベス・モス(「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊」)やその現旦那でウィル・アーネット(「マーダーヴィル サンタを殺したのは誰だ?」)も出てきたりと脇のキャラも経ってた。

で、チームは紆余曲折ありつつ、やがて団結力を高め、臨むクライマックスのトーガ戦!!伝説的なキーパー、ニッキー・サラプ(ウリ・ラトゥケフ「ブラック・サイト 危険区域」)も舞い戻り、役者は揃ったとばかりに、対峙するトーガ代表に向かって、気合の現れで見せつける「シバタウ」のダンスシーンはまさに圧巻!!

「シバタウ」と言えば、先住民族マオリによる「ハカ」(つーか、観るまではこれだと思ってたけど、どうやら国によって特徴と名称が違うらしく、サモアはこれ)のイメージが強くて、それこそロック様も「ワイスピ」スピンオフや「モアナ」でマウイというキャラを通して踊ってたりしてたけど、今作ではまるで気合いも統率もとれてない序盤のなんとも言えない踊りから、このシーンでは完全にチームとして成長し、ジャイヤを含めて、チーム一丸となって、ものすごい雄々しさで魅せるダンスとして進化していて、まさに「ウォー・ダンス」とも呼ばれるダンスの名に恥じない昂るシーンとなっていて、まさに劇中1番の白眉。

ただ、いざ試合が始まるとろくに試合もしていない弱小ではあるので、ポテンシャルをなかなか発揮できず、遂にはトーガに一点決められてしまう…。ロンゲンも激昂し、一度はチームを飛び出してしまうんだけど、タビタの暖かい言葉でもう一度チームに戻り、選手たちに向かって語りかけるシーンが良い。

序盤から不自然に感じていたロンゲンの娘さんの「不在」。実はもう既に交通事故によってこの世を去っており、ロンゲンはそのショックからなかなか立ち直れずにいたんだけど、サモアの風土に触れ、選手たちと出会えたことでもう一度サッカーというものに向き合えることができた…だからフォーメーションも勝つための作戦も忘れて、まずは肩の力を抜いて「楽しもう」と伝えるロンゲンの姿にはグッときたし、そんな言葉を受けて再度「チーム」として団結の心を取り戻し、迎える後半からの「サモアの奇跡」はまさにドラマチックだった!!

ただ、スポ根ものとしてはやっぱ色々とピースが足りない部分もぶっちゃけあって、例えば鬼コーチとサモアチームの「団結」パートも結局のところロンゲンも選手もみんな基本的にはいい人なのでちょっとしたわだかまりだけで意外とすぐにチームとして成立して団結しちゃうし、そのうえでの勝利を掴むための「ロジック」もサモアならではの感じもあんまりない、加えてジャイヤにはスポットが当てられていて、それ自体は良かったけど、ダルーとか他のキャラ、特にGKのピサなんかはあれだけキャラ立ってたのにニッキーが加入した後はなんか影が薄まっちゃったというか扱いに困っている感じで最後まであんまり活躍しなかったのは残念。

あと、試合前の「シバタウ」シーンもあれだけアガるシーンにはなってたけど、ロンゲンの演説シーンの後に決め打ちでもう一つくらいアガるシーンありきでも個人的な好みとしては良かったかも。

あと、折角の勝敗についても、回想形式で描かれちゃって、なんかテンション下がるというか、なんか普通にリアルタイムで喜びたかったかなぁ…。

まぁ、でもサモアもあの大敗からまさかの劇的な勝利を掴み取り、ロンゲンも地球の反対側の小さな島国サモアで、もう一つの「家族」と出会えた「奇跡」は本当にドラマチックで、ラスト、チームメイトと共に日が落ちる夕刻に見晴らしの良い海沿いで楽しそうにダンスを踊るロンゲンは本当に楽しそう…。

いやぁ、なんつーか「クール・ランニング」を彷彿とさせる「負け犬たちのワンスアゲイン」映画にもなっており、色々と惜しい部分もあるけど、幸せな気分になりました!
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