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花腐しのほのネタバレレビュー・内容・結末

花腐し(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

最後のエンドロールが終わったあとのカラオケのシーンで、栩谷が歌い始めた瞬間に何かが腑に落ちて、そこから何故か突然バタバタと涙が出てきて止まらなくなった。

2人の会話の掛け合いと差し込まれる思い出も絶妙なテンポで、飽きずにずっと見ていられる。
途中クスッとするシーンもあって純粋に面白い。

現在が白黒で過去が色付いているのも良い。
腐りかけた現在、なにも無く生きてるだけの今が白黒で、「あのころ」には色が付いていたのかと思うと良いな。

最後の井関の家でシナリオが出てきた瞬間にぞっとして、今までの井関の存在は全て栩谷の頭の中、ひとりでシナリオをなぞっていた出来事だったのか?と思ったら、所謂脳汁出る、に近い感覚がした。
どうりで缶を開けるスピードも、タバコのタイミングも同じ?それは関係ないかな?
でも仕草があまりにも一緒だったんだよなあの2人。

それは共通の女性が好きだった男性としての共通点だったのか、妙に似た雰囲気の2人の出会いという面白さだったのか?という捉え方もできるけど、そう思えなかったなぁ。

祥子は過去も今も同じような部屋、似たような間取りに住むなぁと思っていたけど、あれは栩谷の想像だったのでは、と思うと辻褄が合う気がする。

でもそう考えるとどこまでが現実でどこまでが妄想?
マジックマッシュルームの存在は少しひっかかるな。結局あれは栩谷が育ててたの…?

祥子のことが本当は、本当に好きだった、動物になってもいいと思える相手だった栩谷だけど、
結局ふたりの関係は腐ってしまって、あんな結果に。
それを消化したかった栩谷が、祥子から聞いた話しや祥子の仕草、性行為の時の記憶の断片を切り取って、過去の話しを作って、どんな人物だったのか整理してたんじゃないかな。

それが終わって、自分の中の祥子の存在を実感して、のラストだろうか。

全体的にAV見にきたんじゃないんだから…と、途中「何見てんだろう」と思ってしまうくらいの濡れ場の量で、うっとなったけど。
これが全て「栩谷のシナリオ」なのだとしたら、ピンク映画なのだから納得がいくかも。
井関の言っていたように「AVはファンタジー」なんだから、突然の外国の女との絡みが始まっても、それをなぜ?と思う必要はないのかな。

それを「なぜ突然?」と思うことこそが、あのストーリー全てが栩谷のシナリオだったからという理由に繋がるのだろうか。

途中のシーンにある、あまりにもチープでダサい(ように見える)カラオケでの三角関係のシーン、ちょっと笑えて少し泣ける。
あのシーン本当に味があって好きだったなぁ。

あれがラストの伏線になる、というかあの続きを見ることで、印象が変わったシーンになった。
突然歌い出す栩谷、親友の書いた本の上に灰皿を置く栩谷、当たり前のように隣に立つ栩谷、少し嬉しそうにする祥子を見つめる桑山、高い声で歌う栩谷。

こんなにもあのカラオケのシーンで、栩谷から祥子への気持ちが痛いほど伝わってくることある?
あれを思い出す栩谷の後悔まで伝わってきて胸が張り裂けそう。

「でも父親にはなれた」を栩谷が思っていた、後悔していたのかと思うとあまりに切ない。栩谷は馬鹿だ。

本当に映画館で観てよかった。
正直家で見てたら、長いAVタイムにどうして良いか分からなくなって絶対にスマホとか見ちゃってた気がする。
でもこのAVタイムの間に、実は前のシーンのセリフとかを思い出したりしながら、色んな感情を整理したりしてて。
振り返っている今は、この映画を見る上で必要な時間だったと思えるし、ここをきちんと見てたかそうじゃないかで最後の感動はぜったいに変わってくると断言できる。

そしてどうしてもやっぱり一生忘れられない表現として心に刻まれた瞬間は、
最後の大雨の音が徐々に消えて無音になってから、ドアを開ける栩谷の表情までの一連。
あの瞬間の栩谷は腐ってなかったなぁ。
ほ