竜泉寺成田

首の竜泉寺成田のレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.7
初の北野映画を劇場で見るという非常に贅沢な体験をした。ヴァイオレント映画自体ほとんど見ておらず、タランティーノの「ヘイトフル8」は全然合わなかったりしたので、北野映画はどうかなーと思っていたが杞憂でよかった。
役者陣の演技も軒並みよかったし、美しい画も多くて見てるだけで飽きなかった。時代劇のため大方の筋は知っているわけなのだけれど、細かな話運びの工夫でまったく退屈には感じず。むしろそうした展開の自明さや、戦国時代という背景は、観客である私たちと作中世界との間に隔たりを作ってくれるため、過激なヴァイオレンス描写の衝撃を幾分か和らげてくれると思う。グロいのが苦手という人でも、もしかしたらそこまでダメージを受けずに楽しめるんじゃないかなと感じた。




(↓以下、ネタバレあり)
もう言われすぎていてわざわざ言うことではないけれど、武将をどいつもこいつも全員クズだとする戦国時代のコント的な相対化はやっぱり新鮮で、生(なま)な感じがした。
とはいえ、全てを滑稽に嘲笑うということではなく、「死」はとても静謐で厳かなものとして描かれており、それが絶妙なバランスを生んでいた気がする。レビューでは人の命が軽いというような感想が散見せられるが、確かに人は大勢が理不尽に死に行くものの、死した後の姿を映すカメラは、ダイナミックでありながら、冷たささえ感じるほど静かな構図でそれらを記録しており、決して粗末には扱っていない。そこが、個人の矮小化を目的としてあえて命を雑に扱う傾向にある海外のヴァイオレント映画(あんまり見てないので違うかも)とは違う点なのではないかと感じた。
※メモ:その違いには西洋と日本の自然観の違いがあるようにも思う。死という現象はある種"自然化"とでも呼ぶべき現象であるから、自然を客体化し支配の対象とみなして科学を発展させて来た西洋は死を"物"として突き放してして捉えるし、自然を自己と同一視し永遠の循環の中に自らの命をも組み込んできた日本は死に畏怖を覚えるほどの厳格で静謐な"美"を見出して描く傾向にあるではなかろうか。
画作りについては、明智の城の異様なチープさも気になった。西島秀俊の少しわざとらしい演技は、自分はまともだという顔をしながら、信長や蘭丸に見立てた捕虜(?)を予行演習でサクッと殺したり、家康に持った毒を毒見係に確かめさせたりと意外と平気で人を殺す明智光秀の軽薄さを際立たせていてよかったが、まるでテレビの安い時代劇のような明智の城のセットもまたそのような効果に拍車をかけているような気がした。一方で、秀吉陣営のセットや構図はコントっぽくなっているし、合戦のシーンは余談を許さない大迫力な緊張感が漂っていることから、これらの差異は意図的なものと思われるがどうだろう。
竜泉寺成田

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