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パトリシア・ハイスミスに恋してのshironのレビュー・感想・評価

5.0
映画の冒頭で、創作のきっかけやヒントになることが鳥にたとえられます。
不意に目の前に舞い降りてくる鳥たち、気になる鳥をじっと観察して想像を膨らませたり、時には見過ごしてみたり。
彼女の日記は、日常に舞い降りてきた鳥たちのさえずりに溢れていて、そのまま制作ノートとして読み解けるに違いない。
そして、このドキュメンタリーが作られた…

パトリシア・ハイスミスの恋人たちへのインタビューパートが興味深かったです。
日記の内容を裏付ける生き証人。
どの方も自分の信念のもと自立していて、なんと魅力的な女性たち!
彼女たちからインスパイアされて創作意欲が掻き立てたれたと思われますが…
卵が先かニワトリが先か。
書くべくして出会ったのか?
出会ったから書けたのか?
どちらにせよ、書くことでしか自分の人生を生きられなかったなかったパトリシア・ハイスミスにとって、運命の出会いであったことは間違いないでしょう。
既にお二人が亡くなっているそうです。
彼女たちを映像に残せただけでも、この映画を撮った価値があると思いました。

お恥ずかしながら実は私、パトリシアハイスミスの著書を一作も読んでいない、ただの映画ファンです。笑
みなさんご存知の通り、映像化が非常に多い作家さんですが、アルフレッド・ヒッチコックをはじめとする名だたる監督に「この物語を撮りたい!」と思わせる魅力はどこにあるのか?とても興味がありました。
今回の映画で紡がれる彼女の言葉の数々はとても詩的でありながら生々しく心に響きます。
全く知らなかった感情の筈なのに、あたかも自分の奥底に昔からあった感情を呼び起こされたような感覚になります。
もしかすると、巨匠たちはこの感覚を映像化したかったのかも?
この映画のもう一つの見どころは、
映画化された名シーンが、彼女の文章と共にスクリーンに蘇るところ!!
なかでもトッド・ヘインズ監督の『キャロル』
かつて私の心を震わせた大好きなシーンに作家の描写が重なって、更に激しい感情が呼び起こされました。
パトリシア・ハイスミスによって言語化された感情を、映像で体感していたことの答え合わせのようで、ケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの生々しい演技の凄さも堪能できました。

原作のファンはもちろん、映画ファンにもおすすめです。
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