アイナ・ジ・エンドの歌声はCharaに似ている。少し掠れているが、静かに語りかけるような声。因みに、Charaは今作と同じ岩井俊二監督の『スワロウテイル』に出演している。これは、何かの偶然だろうか。
アイナ・ジ・エンドが扮するのはキリエという女性だ。キリエは住所不定の路上ミュージシャンで歌うことでしか声を出すことができない。キリエの前にイッコという女性が現れ、キリエのマネージャーを買って出る。イッコはキリエと面識があるらしい。さらに、夏彦という青年や小学校教諭の風美がキリエの人生に関わってくる。映画は13年間に渡り、石巻、大阪、帯広、東京と横断していく。
話が進んでいくと、キリエは震災遺児だということが見えてくる。キリエは漁師だった父を早くに亡くし、母と姉も東日本大震災で行方不明になったままだ。一方、イッコは男に貢いできた祖母や母を見て育ち、本名を捨て男たちを騙し続ける人生を送る。家族を失ったキリエと家族を捨てたイッコ。二人の姿は対照的であり、その関係性は天使と堕天使の様に見える。
岩井俊二監督は音楽映画という形を借りて、キリエの姿を映し出す。孤独になっても汚されようとも、前を向いて生きていく術はない。幼いキリエが教会の天窓を見上げたり、暗闇の中を走る夏彦の姿は眼に焼き付く。砂浜でキリエを見つめるイッコの眼差しは純粋だったかつての自分を見ているよな気がした。