トイレ清掃員の穏やかな日常、音楽と文庫本で満たされた日々。「パターソン」と缶コーヒーのCMのマッシュアップみたいな作品で、日々のささやかな喜びを噛み締めながら生きる役所広司が良かった。広告要素の強さにちょい白けるけど、孤独や優しさを内包した良作。
前向きに取り組める仕事、大切な趣味、銭湯や居酒屋など馴染みの場所もある主人公だけど、今のささやかな生活に至った背景は本作で語られない。このルーチンライフに美徳や素晴らしさを感じる反面、ひょっとしたら持てる者側の感想ではとハッとする。役所広司の喜びと悲しみの交錯した笑顔が瞼に残る。
良かった点
・歌舞伎町やスクランブル交差点と言ったわかりやすい”東京”に逃げず、下町や公園を中心とした絵作り。
・音楽の使い方が良い。パティ・スミスを一聴して気に入る女の子という設定いいな。
・撮影期間限定とはいえ役所広司が都内の公共トイレを掃除しまくっていたと考えると感慨深い。
気になった点
・東京都THE TOKYO TOILETプロジェクト押しが強い。プロジェクトオーナーの柳井正の息子が映画の製作も務めているし仕方ないのはわかる。アートではなく広告映画。
・持てる者側であるインテリ層がヴェンダースを雇って市井の人々の慎ましやかな生活をさも美しく描いた点への違和感が残る。
