マルちゃんフランキー

PERFECT DAYSのマルちゃんフランキーのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

ロードムービーにはもはや車はいらないのである。ってどこかの本に書いてあった気がするけどそーゆーことなんだよね結局笑
つまりはヴェンダースが撮るロードムービーは単なる車の移動映画なのではなく「さすらい」の映画なのである。その「さすらい」が描けていれば、乗り物が車であろうが自転車であろうがあるいは徒歩であろうがロードムービーになり得るのである。
それはヴェンダースが敬愛してやまない「東京物語」もそうであり、さすらい続ける主人公像に現代人の根無草的な哀愁が感じられるからである。
今回の映画も役所広司が東京中をさすらい続けるのである。その心の居場所がない哀愁を胸にひたすら浮浪するところをまざまざと見せつけられるのである。
ヴェンダースのロードムービーはアメリカンニューシネマやニュージャーマンシネマといった反抗の映画の一歩先を行った空虚の塊のような映画である。だからこそのいわゆるジョーカーみたいな映画が好きな人でも素直に深く沁みるように作られているのである。
特にヴェンダースの特徴でもある、最後に交わりもしなかった世界線と世界線が交わる瞬間にこそ、カタルシスが込められているのである。「パリ、テキサス」では別れた家族が、「ベルリン・天使の詩」では西ドイツ人と東ドイツ人が「アメリカの友人」ではアメリカ人とドイツ人が交わるといった奇跡が映画に映し出されていた。
今回の役所広司は自分が密かに気になっている女将さんの元夫である三浦友和と最後にお互いの影を重ね合わせるシーンがあるが、あれがヴェンダースが人生かけて撮りたかった映画の瞬間でもあったように思われる。というのも、投射した影をスクリーンに映し出して見る映画にとって影とは映画そのものであり、映画内では人生そのものに映るのである。その混じり合わない世界と世界が重なり合うその瞬間、私たちの「さすらい」に意味があったように思えるのである。その混じり合いは木漏れ日のようにまさに一期一会で、一瞬一瞬が美しく儚く幸せで満ち溢れているものなのかもしれない。