銭湯たのしそう。お酒おいしそう。早起きかっこいい。ああいう細やかな生活に憧れる。
『東京画』でもそうだったけど東京を撮る監督のまなざしが味わい深い。彼が小津狂いであるとはいえ、その味わいにはオリエンタリズムが混入していない(していたとしてもやはり紋切り型のそれとは異なる)ように見える。不思議だ。
影踏みのシーンに、どこか寓意めいたものを感じたが、込められた意味がよくわからなかった。あるいはないのかもしれない。
主題として、ああいう平穏な日常が描かれると、そこに水滴のようにしたたる不穏さに目を向けたくなる。
が、平穏さを賛美するわけでも不穏さを告発するわけでもないまま淡々と映画は進んでいき、そういうストーリーのなさみたいなものにたいして、良くも悪くも歯がゆい気持ちが残った。
ほとんどの日常は物語のかたちをしていないから、それが自然ではある。この歯がゆさから先へ感想を広げることに慎重でありたい。
それから主人公が眠りに落ちるとき映される影の戯れが見ていて気持ちよかった。
