トマト

ラストエンペラーのトマトのレビュー・感想・評価

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
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坂本龍一かっこいい。音楽も最高。

溥儀という「敗者」の人生が、その内面に深入りしすぎることなく、それでいてドラマチックに描かれる。物語が進むにつれ、西太后も、甘粕正彦も、そしてかつての収容所の所長ですら、時代の濁流のなかに消えていく。
西太后にはじまり、毛沢東で終わる、というストーリーの構成は、中国近代の激動を端的に象徴している。

そういう歴史描写が、重みをなす底流としてあるだけに、溥儀をとりまいた、輝かしい「皇帝」としての日々が、すでに存在しない、失われたものとして光り出す。監督があざやかに映像化した、「中華」の伝統と官能の風景が余韻として残る。あの赤い絢爛たる宮殿、臣下たちの秩序立った儀礼・舞踊・所作、そして皇后たちとの艶かしい交わりが、頭のなかでおぼろにかがやく。

歴史的・制度的現実の隙間から、フッとこぼれるような、かつての華々しい日々の記憶。それがついにこぼれ切ったとき、幼少期手にしたコオロギが生きたものとして姿を現し、溥儀は霞のように姿を消す。

すでにまたみたい。
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