届和

PERFECT DAYSの届和のネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

いい作品だと思う。心揺さぶられるものがあった。けれども、この生活は私が目指すべきPerfct days=完璧な日々ではないと思った。
主人公は、トイレ掃除という仕事をしながら、読書や植物栽培、カメラを趣味に、日々ささやかな幸福を享受しつつ生活を送っている。現代に生きる我々は、毎日の仕事や家事などに忙殺され、このような余裕のある日々を送ることは難しい。そのため、この主人公のような生活に憧れを抱いてしまう気持ちも分かる。しかし、もし私たちが同じ生活を送れたとしても、3ヶ月もすれば嫌気が差すだろう。なぜなら、私たちには想像力が備わっているからだ。今よりいい状態を想像して、それを求め、たとえそれが手に入ったとしても、次の幸福を想像して追い求めてしまう。それが人間なんだと思う。よく、無くなって初めて前の生活が幸せだったんだと気づいたという言葉を耳にする。これにしたって、無くなった今の生活より、前の生活のほうが幸せだっただけで、それがあるその時点ではそこに幸せはない。結局いい状態を想像して比較している点で同じである。そして、私たちは他人とも比較をしてしまう生き物だ。もはや、この価値観を覆すことは不可能なんだと思う。小学校以来の教育やこの社会のあり方が、私たちに競争に勝つことが重要であるという意識を植え付けてきた。何か欲しいとき、何かを願う時、私たちの判断基準や価値基準に他人が入り込んでくる。
この主人公は、自分の今の生活に満足しているようで、次の幸せを想像することはほとんどしていない。他人と積極的に関わろうとすることもほとんどない。これが完璧にできれば、確かに幸せかもしれないが、それが人間的と言えるだろうか。この主人公でさえ、他人の幸福を前に、やけになって普段吸いもしない煙草を買ってしまうのに。この主人公の生活に憧れすぎるのはやめよう。私たち人間は、他の動物にはない想像力をもってして発展してきた。想像力は私たちの武器だ。私たちは悩むことを義務付けられた存在だが、その代わり想像力や考える力を持っている。それをうまく使おう。私はその使い方が最近やっと分かった。他人との比較も辞めようと言われるが、他人を排除しようとしすぎるのもダメやと思う。思い返すと、私の楽しみや幸せの中にはほとんど他人の存在が含まれている。私たちは互いに独立した一個人同士ではなく、もとから他人との関係の中に生きている。他人は私の幸せのもとでもあるのだ。
結局私たちにはそれぞれの幸せがあると思う。この主人公を否定したいわけではないが、今の私が望むべき実現可能な幸せはここにない。みんなそれぞれの幸せを模索するしかない。

って映画を見ている最中、隣の客がぶつぶつ言ってたからうるさかった。
届和

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