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墓泥棒と失われた女神のsonozyのレビュー・感想・評価

墓泥棒と失われた女神(2023年製作の映画)
4.5
イタリアの女性監督アリーチェ・ロルバケルの新作。
失踪した恋人ベニヤミーナが語りかける夢を見ている主人公アルトゥール(ジョシュ・オコナー)が列車で彼女の実家のあるイタリア中部に向かうシーンから始まる。

駅でチンピラ風な男が彼を待っており、相手にしたくないアルトゥールだが、男の車に乗る。男の一味に歓迎されるが、避けるように一人朽ちた小屋のような自身の家に向かう。

アルトゥールは、考古学に詳しく、そのDowsing(木の枝を用いて地下に眠るお宝を探り当てる)の能力で、Tombaroliと呼ばれる墓泥棒の一味と共に、古代国家エトルリア時代の遺跡を掘り起こし、そのお宝をブローカーのスパルタコ(常連ですね。監督の姉アルバ・ロルヴァケル)に売ることを繰り返しており、その罪で服役し釈放されたばかりなのだ。

恋人ベニヤミーナの母フローラ(イザベラ・ロッセリーニ)が暮らす邸宅を訪れると、世話人として同居しながらフローラに歌を教えてもらっているイタリアという名の女性と出会う。

アルトゥールは懲りずに一味と墓泥棒を繰り返し・・・

列車のコンパートメントで同席した3人の女性(特に古代壁画のような1人)の魅力。
アルトゥールについて歌い語るギター弾き。
アルトゥールがお宝の場所を探り当てた時の天地反転。
イタリアが教えるイタリア語の手話。
ベニヤミーナの夢。彼女のニットウェアからほつれた赤い糸。
一味が掘り当てた古代国家エトルリアのキュベレー(大地母神)の像。
廃駅を女系コミュニティにするイタリアのたくましさ。
など、印象深いシーン&ストーリー。

そして、鳩に見つめられながらの、あのぐっとくるラストへ。
愛するベニヤミーナの喪失感、過去とつながる不思議な能力、イタリアとのいい関係...。時に直情的になるも、悲哀に満ちたアルトゥールを演じたジョシュ・オコナーがとてもいい。

タイトルの「Chimera(キメラ)」は、元来はギリシャ神話に登場する複数の動物のハイブリッドな怪物のことで、そこから派生し「幻想・妄念(非現実的な考えや、叶う見込みのない希望)」といった意味もあるようです。
失踪した彼女、赤い糸、過去(エトルリア時代)とのつながり...冒頭からラストまで、アルトゥールの幻想的な空気が漂ってます。
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