デパルマ

落下の解剖学のデパルマのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.5
ただただ悲しい。どうしてこんなことになってしまったんだろう。法廷映画を超えて最終的には感動の犬映画になってて泣くしかない。父親である自分を子供を守る犬に重ねた夫の言葉を思い出さずにいられないあのラストシーンに救われたと同時に虚しさが押し寄せた。最後に愛だけが残った、のだろうか。銀髪に染めた津田健次郎のような弁護士スワン・アルロー、iriをたくましくしたみたいな保護役ジェニー・ベスのお顔が眼福。殺人事件をめぐる法廷劇ではあるけど、「イカとクジラ」「マリッジ・ストーリー」みたいな親権争い映画に見える。あるいは法廷ミステリというより「ブルーバレンタイン」と思って観た方がいい。妻は家事と育児、夫は仕事という類いの男女の典型的な性的役割分担を逆転して批評している点で「TAR/ター」「バービー」とも似ている。「バービー」も夫婦共同脚本だし。映画の体感2/3くらいを占める法廷劇はそんなに盛り上がらないし事件より夫婦喧嘩の代理戦争に収束していくし(わざとだしそれがテーマなんけども)、家族ドラマを描くにしては法廷劇が長すぎるし夫が不在だし、離婚ものとしても新鮮味がない。かと言ってストーリーテリングや演出が新しい訳でもない。しかしなるほど音楽の使い方や家族にまつわる気まずいお話は審査員長リューベン・オストルンドがお好きなやつだね。ただ冒頭のインタビューのシークエンスはすげー面白いし、ドイツ人とフランス人の夫婦が家庭では母国語ではなく英語を話しているディテールも夫婦間の家事や育児をどちらがどの程度分担するかの歩み寄りと同じように描いているのは新鮮だった。あとパンフが薄すぎる。
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