故ラチェットスタンク

落下の解剖学の故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
 落下とゲロという最上級の映像快楽を画面から取り除き、その解釈に終始するあたりこの映画は「映画についての映画」映画として位置付けることができるだろう。

 言っちゃうと「映画」ひいては「物語」としての快楽が突き抜けて下り坂になる所から話が始まるのでほぼ全編映画的じゃない。で、普通に寝落ちしそうだったんだけど証拠音声再生される所でフッと意識が戻った。つまりそれはそこが切り取られ(その結果演出され)たものであって、つまり「映画」だからってことで、傍聴席が映されるのも「映画を観客が見ている。」という意図が含有されているとみて間違いない。

 ラストの父親のアフレコのところと併せて会話から想起される映像ということなのだろう。多くの人が同じ物語を共有する場面は映像として立ち現れるが、会話終盤で「どっちが何を壊したか」みたいなことが分からなくなる部分は映像にせずバッサリ切っているあたりにもトーン&マナーは感じる。裁判の場面の多くでカメラの存在を意識させる撮影がされているのも今作の提示しようとしている「分からなさ」に寄与しているだろう。

 とにかく、ひと所の解釈に落とし込むこと(=演出すること)を拒む。いくつもの解釈・演出がいくつもの解釈・演出を拒む。それは決して分かり得ない他者を巡る記録である。この映画は映画だろうか。映画の外にあるはずの瞬間が淡々と繋がれ続ける。だから、少なくともきっと、四角四面な物語とは言えないだろう。つまり何が言いたいかと言うと、入り組みすぎていてよく分からない、ということである。