鈴木ピク

枯れ葉の鈴木ピクのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.5
人工的な暖色のトーンの中、無表情の男女が惹かれ合っていく過程を淡々と、孤独やみじめさへの共感とユーモアの余地を忘れずに丁寧に構築していく。
移民三部作以前の内容をセルフパロディにしたようでいて、老境超えてむしろ瑞々しいのは(以前の顔ぶれよりは)若い役者を信頼した結果。

主演女優が台本読んで「15分くらいの映画の台詞量」と思ったらしいけど、実際15分もあれば語れるくらい話がシンプルでさしたる波風も立たない 近作で襲い来た恐ろしい社会はここではラジオの向こうで(確かにそれはある)、あくまで中年の男女が踏み込めるか踏み込めないかの心意気一つ。

カウリスマキが信じてるのはこのシンプルな映画の滋味を味わいきれる人間の豊穣さ その対極にあるものに抗うために 短い映画なのに小ネタは捨てず、シネフィルいじりの部分は今年『はなればなれに』映画館で観れてはしゃいでいた俺に効いてただ一人笑ってしまった 恥ずい。

カウリスマキをスクリーンで見るの初めてか、じゃないとしてもいいとこ二度目ですけど、超が付くほど人工的な画作りの真価を見た思い なのに実は役者にはリハを禁じワンテイクで済まし、おまけに犬が好きで画面に投入したがるという綱渡りが展開してる辺りがどのシーンも予定調和に堕さない秘訣か。

ラストショットの素晴らしき平凡とでもいった抜けの良さ なんだからしくないというか、コントロールからも解放された、「世界のカウリスマキ化」といった楽天性をさえ感じた あれほど人生の秋超えて冬みたいな空気を描出してきた人なのに、この秋は春のように青く澄んでいる。
鈴木ピク

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