明石です

枯れ葉の明石ですのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
5.0
フィンランドのアキ·カウリスマキ監督の6年ぶりの新作とのことで、前作を観ていないにも関わらず、京都の映画館で年末年始に4日間だけ限定上映していたので、映画好きの知り合いを誘い、初日に駆け込み鑑賞。まさかの満員でした。アキ監督のファンが京都にもこんなにいるんだなあと畏敬の念を抱かされる。

これは素晴らしい映画を観てしまった、、というのがいちばん正直な感想。まず何が凄いって色遣いですね。ジャケットからも滲み出るセンスの良さはさておき、赤青緑の原色を独自のセンスで配した画面作りが、もはやこだわりを超えて哲学。冒頭に映る、ヒロインの働くスーパーの控え室が、赤と緑と青の色のロッカーに囲まれ、そこで服を着替える女性陣がは、薄赤の制服を脱いで青のコートに着替えるといった具合に。ちょっと他では見れない画作りに、なんだこれは、、序盤からと魅了される。

そしてストーリーはなかなかにハードボイルド。しかも相当に私好みなやつ。期間工を転々とするアル中の男と、不運のお導きにより何度も職を失う去っている女性(スーパーで賞味期限切れの「廃棄」の食品を持ち帰ってクビになったとか、上司がヤクの売買で捕まったとかそういう不運笑)の間に紡がれる恋愛譚。ライアン·ゴズリングに激似の主人公はやたらとハードボイルドな男で、「タフな男は歌わないんだ」とか嘯き、酒に溺れる。でも女性には溺れない。アル中を指摘されると、「指図する女は嫌いだ」とだけ言い去っていく潔さは、アル中で季節労働者という背景を補ってあまりあるほど格好いい。そして、そもそもが台詞を削って演技と構成で見せる作風ながら、後に残った台詞がどれも洒落てて小説みたい。「彼、私の家をバーみたいに使って、謝罪の電話もないの」

これだけ色遣いに癖があり、ストーリーも30,40年代のアメリカのハードボイルド小説みたいな、こう言ってよければ昔気質のものなのに、そこで語られる人生に嘘がないのはやはり素晴らしい。フィクションだからといって、実際の世の中に存在しない人生を語ってしまう愚を犯すことなく、それでいて、実際の世の中には存在しない配色でこだわりを見せる。この現実とフィクションの塩梅がとても私好みで素晴らしい。最近同じく京都シネマで演っていたゴダールの『軽蔑』に、好きの方向性としてはかなり近いかもしれない。画面はフィクションだけど、物語は真実。

重ねてになりますが、これほどの名作には、映画館で見る映画は家で見るよりも得てして目方ひとつ分くらい余計に高評価してしまうきらいはあるにせよ、なかなか出会えるものではないと確信している。ウディアレンの『レイニーデイ·イン·ニューヨーク』と並んで、リアルタイムで映画館で観れたことを孫の代まで自慢したい一作です。なにせこれだけ力のある巨匠が、これだけのキャリアを経てもなおベストを更新しつづているその瞬間に立ち会えたことがこの上なく尊い。
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