アキ・カウリスマキ『枯れ葉』がロングランになっているのはほんとうに素晴らしいこと。まだ観ていない人はぜひチェックしてみてください。カウリスマキの良いところが凝縮した、見事な、ほんとうに見事なラヴロマンスの傑作です。今、世界が必要なアートはこういうものかもしれないな、と思うほど。
仏頂面な俳優たち、貧しく慎ましい暮らしをするキャラクターたち、精密に、静謐に構築された画面、シンプルなストーリー、オフビートな笑い、そして溢れる音楽といった、カウリスマキ・マジックに満ちた、たった80分の映画。でもそこには人生にとって大切なものがあって、それを愛さずにはいられない。
ラジオから流れるのはロシアによるウクライナ侵攻のニュース。カウリスマキの母国フィンランドはロシアと接する国だ。カウリスマキはこんな世界情勢の中で、引退を撤回して、メロドラマを撮った。そこに込められた祈りや願いはささやかに、画面に定着している。劇中の犬の名前はチャップリンだ。
カウリスマキ映画ではよく人が並んで歩いていて、それを観ると小津を想起させられたりする。本作にもそういう瞬間があって、カウリスマキの映画愛に満ちている。ジャームッシュもデヴィッド・リーンの名前も出てきて、ユーモラスに使われる。こんな映画を愛さずにいられるだろうか。