いわもと

枯れ葉のいわもとのネタバレレビュー・内容・結末

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

初めてアキ・カウリスマキ監督の映画を見たのは1990年で『真夜中の虹』でした。
運に見放されたような中年の男女が出会い(タイトルのような)おぼろげな希望を見出そうとする物語。
登場人物たちは無口でぶっきらぼう、それがオフビートなユーモアとなっている不思議な空気感に魅了されました。

で、最新作の『枯れ葉』はというと、実はあんまり変わっていない。
カウリスマキ監督が敬愛する小津安二郎監督は
「ぼくは豆腐屋だから豆腐しか作らない。(中略)人には同じように見えても、ぼく自身はひとつひとつに新しいものを表現して、新しい興味で作品に取り掛かっている」
と言ったが、カウリスマキ監督もそうなのでしょう。

ヒロインが男を家に招く前に皿やカトラリーを買っているシーンによって、彼女が一人分の食器しか持っていないことがわかる。
けれども彼女は孤独に打ちひしがれているわけではなく、自立した女性であり、酒におぼれる男を毅然として叱咤できる強さがあります。

相変わらず登場人物たちは無口ですが、流れる音楽がその気持ちを伝えてくれます。
全ての歌詞に字幕をつけてくれた配給会社に感謝。

劇中、ラジオからは常にロシアによるウクライナ侵攻で一般市民が亡くなったニュースが流れています。
それによって、主人公の不運や孤独は相対化され、この世界が悲劇と不条理に満ちていることが提示される。
ならば希望や救いはあるのか?

ある時期からカウリスマキ監督は照れずにハッピーエンドを描くようになりました。
それは、世界中でテロや戦争が起こり難民が増加した頃から。
せめて映画くらい希望を描かなくてどうするといったところでしょう。

男がヒロインが飼っている犬の名前を尋ねると「チャップリンよ」と答える。
その時に犬が「ワン!」と吠えるのは名前を呼ばれたと思ったからですね(かわいすぎる)。
あの犬は本当にチャップリンという名前で、スタッフか誰かの飼い犬じゃないかしら。

ラストの二人(と一匹)が歩いて行く後姿はチャップリンの『モダンタイムス』へのオマージュでしょうね。
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