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関心領域のmikeのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.5
設定、バチバチの画と音響だけでも充分すさまじいけれど、それを超える切実さがあった。目をつぶること でも聞こえてくる音。

全体的に『悪は存在しない』と少し通じるところがあると感じたのだが、冒頭の聴覚を叩き起こされ、思考を促され、映画に引きずり込まれる感じも似ていた。

わたしはやはり妻に思い入れてしまった。俯瞰で見たときの暮らしのグロテスクさはもちろんのこと、そもそも彼女は家庭内でも目をつぶっている。夫の不貞、環境がもたらす子どもたちへの歪み、母の出奔、自身のメンタルヘルス。そこから目をそらすように、彼女は過剰なまでに豊かで清潔で快適な城を作り上げ固執する。それはこっけいで物質主義的で自己中心的な悪事だが、わたしは彼女を笑えないと思ったら、なぜだか泣けてきてしまった。一度搾取する側に回ってしまったら、そこから降りるのはとてつもなく難しい。

ラストの構造を取っても、監督は「今」に向けて鋭い視線を向けている。一番強く想起されるのはガザ虐殺のことだが、もっと広くもっと身近でもっと小さなことにもその射程は及んでいると感じた。現代においてなんの問題もなく快適に暮らせているとしたら、それはまちがいなく隣の誰かの犠牲に目をつぶって成り立っている。世界に対してどのような態度を取り、個人としてどのように生活していくのかを重く問われる映画だった。
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