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関心領域のとぽとぽのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
"無関心"という共犯に潜む"凡庸な悪"

自然から始まり、しばらく戦争の影を感じさせない。ドリーショットによる横移動こそあれどカメラ自体は動かない、決してパンしないカメラは、恐ろしいほどに秩序立った"静"の印象を受ける。作中、家の中で同じ画角のショットが度々出てきて、そこで日常が繰り返され、生活風景が繰り広げられていることを際立たせる。メイドたちには「生地1枚ずつ取っていい」と言いながら(そして生地が広げられた机に集うメイドたち)、自分は部屋で高価な服を身にまとい、その様子をあらゆる角度から撮ることで、他に誰もいないことを強調する。
そんなふうに、アウシュヴィッツ強制収容所のすぐ隣で家や庭にも凝りまくって、自分の理想の城(塀で覆われた)を築く奥さん。そんな何気ない生活風景でも、ずっと隣から聞こえる厭な音が、そこでは"人間"らしい生活や振る舞いこそ、何よりも"人間"らしくないということを表していた。ぜひとも耳を澄まして鑑賞してほしい。そうやって数え切れぬほどの人間の命を、何事でもないかのように容易く奪ってきた現実は、本人たちにいつかのしかかるのだろうか…?作品終盤、誰にでもわかるような形で、突然とある手法でそれをハッとさせられる。歴史は歴史じゃない自分事。
あくまでフラットに描かれた"ドラマ性の剥奪"と"凡庸な悪"、"結局他人事"という無関心の壁。ロングショットの多さなど、いかにもヨーロッパ的か。見る前から分かっていたことだけど、やはりキャッチーな内容ではなく、あくまで淡々と進む語り口なので、映画館でウトウトしている人もチラホラといた。そして、『落下の解剖学』に続きこっちでもザンドラ・ヒュラーとは、すげぇ。もはや強烈キャラのイメージになってしまいそうだ。

勝手に関連作品『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』『ニュー・オーダー』
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