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関心領域のmasososoのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.9
画面に展開されるのは、裕福な家庭の日常ホームドラマ。画面内の普通によって画面の外に在る異常性を浮き上がらせる。
『ヒトラーのための虐殺会議』だったり『オッペンハイマー』の投下地会議なんかでも似たような手法が取られてたように思うけど、全編通してあえて退屈な日常映像を流し続けたのは挑戦的な試みだったなと。
冒頭の真っ暗闇が数分続いたあの時間も鑑賞者の“関心”を試されたようだったな。
敢えてなのはわかった上で、とはいえ映画としてはドラマがなくて正直退屈だった。
でも引きの画になった瞬間、やたら絵になるカットがたくさんあってそこは好みだったな。夕暮れの庭に佇むヘスのタバコの煙と、人を焼く焼却炉の煙のカットは安直な気もするけど唸らされた。

アウシュビッツ強制収容所の所長家族の話だという情報を排除して見ると、ほんとに公務員、ごみ焼却施設の所長のお話を見てるようなんだよな。
それも特に見どころのない他愛のない日常。
バースデーサプライズ、ホームパーティー、転勤による夫婦喧嘩...残酷な現場は徹底して映さない。家族の会話にも出てこない。ユダヤ人を虐殺するのはヘスにとってはあくまでも仕事であって、その妻にしても関心事は家族の幸福、己の欲求のみでその関心の領域は家庭の外に及ばない。

そんなだけど、バースデーサプライズで平和な庭を映していたカメラアングルが反対を向くと、庭塀には有刺鉄線が巡らされていてその奥には監視塔が望めるし、子供達が戯れるプールの向こうでは“荷”を積んだ汽車の煙が走っている。将校の妻達の井戸端会議の内容はユダヤ人からの没収した服の話で、その隣の部屋では人間を焼く為の算段をまるでごみ焼却場の運営かのように話している。
平和で家庭的なシーンの背後でずっと響いてる悲鳴と謎の轟音。
ありふれた映像と会話の中に違和感を配置する絶妙な塩梅に終始不安を煽られた。
逆に時々聞こえてくる不協和音はわざとらし過ぎて若干辟易したかなあ。

自分で引っ張り出してきて気がついたけどオッペンハイマーに対してはフラットな感情で見られないですっごい感情的になったんだったな。似たようにホロコーストの現場を映さないこの映画については冷静に咀嚼してる僕。要はこれが僕の関心の領域なのかもしれないな。

プールに立てられたシャワーポールは無関心な彼らを罰する絞首台に見えた。


疑問のメモ
・夜の屋外だけ暗視視点になっていたのは何かの狙いがあるのかな。
・ピアノで弾いていた曲はホロコースト下のユダヤ人達のテーマ曲なのかな。知識が足りない。
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