ぬまち

関心領域のぬまちのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.5
アウシュヴィッツのすぐ隣で安寧に過ごすエリート軍人一家の日常を描く。

直接的な残虐描写は一切なく、塀の外から聞こえる悲鳴や銃声などの音、川に流れてくる遺灰など、間接的な表現でホロコーストの残虐性を描く演出が見事。加えて、ユダヤ人を効率的に焼却する仕組みについて、まるで商品開発の企画会議のように淡々と打ち合わせを行う様子は、空恐ろしさを覚える。実際に、ホロコーストを指揮したアヒイマンは、暴君でもサイコパスでもなく、極めて実務能力の高い官吏的な人物だったそう。本作の主人公にも「残虐行為を行なっている」実感がなく、粛々と上から与えられた業務を遂行するだけの感覚しかない感じがよく表れている。

カメラは人物の顔に寄ることはなく、終始「引き」の画角を維持し、人物への感情移入を徹底的に拒絶する(ある一人を除いて)。

ラストのある展開にも驚かされる。ホロコーストの問題を飛び越え、自らの生活が脅かされない限り現実にある残虐行為に対し「無関心」でいたい人間の欲望そのものを抉り出す。ここで聞こえてくるある「無機質な音」にこそ、そのような人間の「無関心願望」が表れているようで、真に恐ろしい音の演出はこの部分だと感じた。

あくまでアート映画なので娯楽性は一切ないが、映画館で観る価値のある作品だろう。
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