三樹夫

関心領域の三樹夫のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.5
この映画はナチスドイツに限った話ではなく、誰にでも当てはまることなので普遍性のある映画なのは確かだが、観客少なそうな映画かと思っていたら劇場がパンパンでビックリした。
アウシュビッツ収容所の隣にあるデカい家に住んでいるドイツ人家族の日常がずっと描写され、画面に映るのは基本的に家と庭ばかりだが、塀の上に見える煙突や聞こえてくる音からどんなことが起こっているか想像できる。そんな中で普通に暮らしてるの頭おかしいんじゃないかと思うが、「関心領域(The Zone of Interest)」とはよく言ったもので、都合の悪いものには一切関心を持たないようにしている。一番「関心領域」な過ごし方をしているのは妻であり、住居は家と庭を塀が囲んで都合の悪いものは見えないという作りになっているが、実際に彼女が関心を持つのは家と家の中と庭だけという、塀に囲まれた家と庭は彼女の内面の表象にもなっている。この映画は第二次大戦中のナチスによるホロコーストに限るのではなくガザだったり他のものにも代用が可能で、あの堀に囲まれた家と庭は都合の悪いことからは目を背ける現実世界の様々なことのメタファーとしても機能する。夫もわりかし「関心領域」な過ごし方をしているが、1シーンだけ明らかに思いっきり直視しているだろうシーンがあり、つーか毎日収容所の中にいるわけだから「関心領域」外のことを見ざるを得ない。
子供は気付いてたかは分からんが、夫は当然としてどう考えても妻も隣で何が起こっているかは知っており、なので川に遺灰が流されていたことを知った時には慌てて子供を洗い出す。

映画が始まり最初は何も映し出されず音だけが聞こえる。これは劇中聞こえる音に注目してくださいということだ。あらすじでアウシュビッツ収容所の隣に住む家族というのが提示されているが、一番理想の見方としては一切の情報を得ずに何の映画か全く分からない状態で映画を観て、この映画って第二次大戦中のドイツの話なのか→あれ塀の外から見える煙突ってもしかしてアウシュビッツ?→荷を焼くとかいってるけどこれってユダヤ人のこと言ってるくない?→この聞こえてくる音って銃声とか悲鳴?→やっぱアウシュビッツか→じゃああの灰ってユダヤ人の遺灰か→使用人もユダヤ人か、と映画が進むのと同時に考えて気付いていくのがこの映画のコンセプトに一番沿ったの見方ではある。
コンセプトがとにかく先行したようなコンセプト映画となっており、コンセプトありき感はある。
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