悪名高きナチスのアウシュビッツ収容所の初代所長ルドルフ・ヘスを描いた作品。
予告編の通り作中の映像にはグロテスクな映像は一切映らない。
ヘス一家の日常風景を中心に描かれ、
ルドルフヘスの家庭内での良き父としての姿や、
転勤を妻に告げて喧嘩になる姿、
単身赴任先から家族に電話をしたり
焼却炉の設計士との商談や大規模プロジェクトの会議の進行役を務めてストレスで胃を痛めたりする
まるで"大企業(転勤あり)の子持ち中間管理職"のような姿が描かれる。
ただ音は違う。
家族の団欒や就寝のシーンでも常に隣の収容所から漏れ聞こえてくる怒声や叫び声、遠くから聞こえる銃声や焼却炉の作動しつづける音が当たり前の環境音として鳴り続ける。
ヘス一家は音を気にすることなく過ごし続けるが、
恐ろしいことに私たち視聴者も聞き続けている間に
"近所で工事をしているのに慣れてしまう"
が如く慣れてしまうことに気付く、
音のトリックアートのような作品となっている。
本作含む2024年アカデミー複数部門受賞作品である
・オッペンハイマー
・落下の解剖学
・関心領域
の3作品も致命的な出来事を直接は描かない。
致命的な出来事の背景や周辺領域から間接的に巧みに描くことで、
致命的な出来事に対する視聴者の関心を掻き立てる。
関心領域は視聴者の音への関心が薄れることを自覚させることでグロテスクさを演出する。
いずれこの映画は動画サブスクで配信されるだろう。
しかし、倍速視聴やイヤホンの音量では
この映画で鳴り続ける"環境音"は
より一層、視聴者の関心の領域外に追いやられるだろう。
音から逃れることができない映画館で上映中にぜひ観て欲しい。