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関心領域のKasaのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.8
個人的にはあっという間の90分。娯楽より芸術に寄った映画。

最近の映画は、人間が犯してきた罪の事実を現代人に見せつけるような作品が多い。「お前らはこんなにも愚かな生き物なんだ」と。それがエンタメに昇華されているか、芸術作品になっているかの違いで評価が分かれている気がする。この作品は圧倒的に後者。ww2の知識、特に「ナチスが何をしていたか」詳細を知っている人ほど苦しい世界に没入させられる。

大学でいくつか戦争犯罪に関する授業を取り、当時の塀の向こう側の実情と、国の政治体制を学んだ。そのためか、正直なところ開始数分から気持ち悪かった。シーンの意味がわかって辛かった。何度か出口の場所を確認した。
そして、「クーラーの効いた日比谷の映画館でこれを観ている戦争を知らない日本の若者」という自分を認識してさらに怖くなった。
ずーっと耳元で不協和音を聞いているような映画体験だった。

…これだけ怖い思いをしたのに、「もう一度観てもいいかも」と思える。きっと、徹底したリサーチと細部へのこだわりが生む緊張感が、身体や頭を美術館に行ったときのような状態させてくれるからかもしれない。作品に触れることで自分と向き合えるという意味で、とても芸術性の高い映画だと思う。

悲しいことに、時代が進めば進むほど 「関心領域」は狭まっていくと思う。
芸術は、映画は、いつの時代も世の中の歪みを突きつけるものとして存在し続けてほしいな。
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