708

関心領域の708のネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

公開日に観てから解説を色々と読んだ後、4日後にもう一度観ました。それも交えて書いています。やはり知らないで観るとわかりにくいところがあるので、解説は必要だと思いました。

タイトルが出てからなかなか最初の映像が出てこないまま、延々と音だけ聴かされることで、何が起きているのかという不安感が初っ端で植えつけられた感じがしました。映像は穏やかで美しいのに不穏で不気味な空気感がずっとつきまとっています。映画において音響がかなり重要な役割を担っているし、映画の出来を左右するものなんだと痛感しました。
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アウシュヴィッツの横で塀一枚を隔てて暮らす幸せな司令官一家の話。直接的なショッキングなシーンは一切ないんだけど、花が咲く美しい庭やプールで子供たちが楽しげに遊んでいる背後では、罵声や銃声、悲鳴が聞こえていて、目にしているものと耳にするものにギャップがありすぎます。異常な環境でも慣れてしまえば気にならないという恐ろしさ。

肝心なアウシュヴィッツでの出来事が一切登場せずに、ずーっと行間が続いているような感触。その行間だけですべてがわかっちゃうくらい想像力が豊かな人ほどキツいと思います。

塀のこちらの家庭内では、夫ルドルフの転属話をいきなり聞かされた妻ヘートヴィッヒが「引っ越したくない」と、お気に入りの家を手放したくないというゴタゴタ。塀の向こうで毎日行われている大量虐殺に比べたら、そんなのどうでもいいじゃんと言いたくなるくらい。この裕福な生活も、ホロコーストの上で成り立ってるんだと思うとゾッとします。

遠くで上がっている煙は焼却炉で囚人を焼却しているものだし、​ルドルフのブーツを洗うと流れる赤い水は血だし、ヘートヴィッヒが纏っている毛皮のコートやポケットから取り出した口紅は囚人から奪ったものだし、息子が遊んでいるオモチャは囚人の入れ歯だし…という感じで、「え、そういうこと?」とワンテンポ遅れてゾッとされる物事が多い。そのほうがショックも大きいんです。口紅を平気で使ってしまう精神性には、吐き気すらしました。家族で川遊びをしていたら人骨が出てきて、有毒ガスの影響を防ぐために急いで帰宅して念入りに体を洗う、というくだりもかなりおぞましい。どんなに自宅を素敵で綺麗に整えたところで、異常な環境で生活しているという事実は、塀一枚で「無いこと」にはできないんです。

途中途中で挟まるサーモグラフィのようなモノクロのパートは、飢えに苦しむ収容者たちのために、夜な夜なリンゴを隠していたという実在の女性アレクサンドラがモデル。収容者が書いた曲の楽譜を見つけて、演奏しています。

中でも一番怖かったのが、パーティ会場に集まった味方のドイツ人たちを、その空間でどう殺せるかを考えてしまっているルドルフ。完全に職業病のような感じなのでしょう。

ラストで現代のアウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館に切り替わり、清掃員たちが掃除をするのですが、兵舎をそのまんま博物館として利用しているので、同じ場所でタイムワープしたかのよう。100%事実であるという生々しさを叩きつけられたような感覚がありました。

物語の起伏や大きな展開が特にないまま、延々と事実だけが綴られていく分、退屈に思えるかもしれないけれど、異なるところに設置された10台の固定カメラで同時撮影することで、監視カメラで一家の生活を「これでもか」と覗かされて刷り込まれているようで、自分の中での不快感や嫌悪感が、より濃密に醸成されていく感覚がありました。尺はもっと短くてもいいのでは…という意見もチラホラ見かけますが、やはりこのくらいの尺があったほうが不快や嫌悪のツボが、より刺激されるように思えます。
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