ルマンド公爵

関心領域のルマンド公爵のレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.4
MOVIX宇都宮10 G-8 真ん中ちょい後方 良い
タイトル通りの新体験映画。今まで見た映画で一番怖かった。

冒頭映像なしで音のみの時間が1,2分ある。多くの人は真っ黒のスクリーンを見ながらも関心は音に向いただろう。まさに関心領域を視覚から聴覚に変えたのだ。冒頭にこれがあることで今から音に関心を向けてねとヒントをくれているのだ。この手法に脱帽。既に高評価。

そのヒントの意味を理解した人から早くも残酷な現状とこの映画の不気味さに気づくだろう。

大きな家に大家族にお手伝いさん。裕福な家族の楽しそうな日常が流れる中、銃声、焼却炉の音、悲鳴が微かに飛び交う。家族は誰一人それに関心を持たず日常を過ごしていく。隣の建物のアウシュヴィッツ収容所でユダヤ人殺害が24時間毎日行われていることに関心がないのだ。つまり関心領域の外にある。日々殺害行為が行われていることのに普通に楽しそうに過ごすその家族に疑問を抱く人もいるかもしれないが、すぐ自分はその家族の一員になるだろう。

この映画には大胆なストーリーと呼べるものはあまりない。ただ淡々とその家族の日常が流れる。そこに面白みを感じなかったり、飽きてきたり、眠くなってくる人もいるだろう。しかし、その中でも銃声や悲鳴は鳴り続けている。私自身あまり展開しないストーリーに少し飽きてきたなと感じていた。最初の銃声が聞こえきた時は残酷だななど心が痛んだりしたのだがいつの間にか自分もアウシュヴィッツでの殺害行為が関心領域の外になっていたのだ。たった数十分で私もヘス家の立派な一員になっていたのだ。

ストーリーの展開の1つにヘスの母がこの家に転がり込んできた。この母は家にユダヤ人らしき手伝いがいることに嫌悪感を示していた。そして母はある日、手紙を一枚残してこの家を去る。その手紙の内容は明かされなかったが、恐らく日々隣で続く殺害行為に耐えられなくなったみたいな内容だろう。母はアウシュヴィッツ収容所が関心領域の中にあったのだ。

またサブリミナル的にスクリーンが赤色などの単色になったり、不気味な音が流れる。我々はそこには関心があるらしい。視聴者の関心領域を試しているように感じた。

そして、2回ほど赤外線で撮影され、ユダヤ人捕虜が労働する場所にリンゴを埋める少女が映し出される。彼女はアウシュヴィッツ収容所の近くに住むポーランド人。焼却炉から出る煙を見てカーテンを閉めるなど彼女の家族はアウシュヴィッツ収容所が常に関心領域の中にある。そしてユダヤ人のために何かできないかとせめてものとリンゴを作業場に埋めるのだ。そのシーンとアウシュヴィッツ収容所の所長でありこの物語の主人公であるルドルフヘスが彼の娘インゲにヘンゼルとグレーテルの読み聞かせが同時進行で行われ、投影されてる。またインゲもまた夜眠れなかったりなどアウシュヴィッツ収容所が関心領域の中にあるという描写がよくある。

ラストシーン。ヘスは昇進し、毒ガスを使ったヘス計画を発案。家族と離れベルリンで住むヘスはその日妻にそのことを電話する。その帰り、階段で嘔吐する。そして廊下の深淵を覗くと今現在のアウシュヴィッツ収容所が映し出される。そこにはアウシュヴィッツ収容所を数人の女性達が掃除をしている。ショーケースの中には大量の靴、そして多くの写真。アウシュヴィッツ収容所での大量殺害の証拠がそこには沢山あるが、誰1人としてそこに関心は示さず、仕事としてただ掃除を黙々としている。そう彼女らもアウシュヴィッツ収容所での残虐行為は関心領域の外なのである。この手法にも脱帽。

そのメタ的情景を見たヘスは自分は何をしているのかなど考えてしまい嘔吐してしまったのかもしれない。

関心領域はユダヤ人殺害の残虐行為を何一つ見せず残虐行為を伝えた。我々もヘス家と同じだろう。日々戦争は行われているし苦しんでる人は世界中にいる。だがそれは我々の関心領域外だ。見なくても分かってるし見ても関心領域の外に追いやろうとしている。我々はヘス家なのだ。