モモモ

関心領域のモモモのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.0
絶え間ないシンメトリーとフィックスとロングショットの釣瓶打ちが劇映画ともドキュメンタリー的とも言えない独自の話法を生み出す。
映画にはまだ拡大可能な、再発明が可能な余地が残っているのだと希望を抱く事が出来る一作。
アウシュビッツの真横に建てられた豪華な一軒家。そこに暮らす所長一家には、召使がいて、子宝に非常に恵まれて、不自由の無い贅沢な暮らしが存在していた。
時折悲鳴が響いても、時折銃声が響いても、人を押し込めた電車の煙が見えようと、夜の中で忽然と燃え続けようと、穏やかな生活が続く。
人間だった物が川を流れてきた時には慌てふためくが、それは汚物が身体に触れた時の反応に過ぎない。
夫婦で笑い合った(このジョークも随分残酷な物だったが)翌日には青空と陽の下で虐殺を虎視眈々と繰り返す。
馬との束の間の別れを惜しむ様な繊細さや娘をあやす親心がありながらもユダヤ人の少女を慰め者にする畜生である多面性。
行為に及んだ性器を地下でこっそりと洗う滑稽さとグロテスクさ。
妻は贅沢な暮らしを持続する為に激怒するが、その母は毎晩燃え盛る灯りに心を病んで姿を消してしまう。
残酷な所業に及んだ人間達が「自分たちとは違う存在」なのでは決してない。自分たちと同じ存在が、そして時には自分たちが、環境と時代に麻痺させられるのだ。
決して歴史は、我々は忘れはしないぞ、と切り込んで終わるラストの「そんな演出アリかよ」が素晴らしい。
無限に続く様な階段の果てには薄暗い地獄が待っている。
モモモ

モモモ