昇り龍天覚寺

関心領域の昇り龍天覚寺のネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

ナチスの司令官とその妻。アウシュビッツの向かいに建つ、大きな庭園やプールを持つ「楽園」のような家。
塀の向こうで行われる虐殺に一家は無関心で楽園のような暮らしを送る…とはいかない。

どれだけ塀の向こうに無関心でいても、収容所の排気ガス?毒ガス?は大気を汚染してるし、一家が水遊びをする清流にもユダヤ人たちの遺灰が垂れ流される。
眠る時は焼却炉の稼働音に断末魔と否応でも向き合わされる。

虐殺の当事者である夫も本当は収容所の真向かいでの暮らしを内心苦痛に感じている。
なので異動が指令されると、同僚(部下?)から異議を申し立てた方がいいとのアドバイスを受けながらも、特に異を唱えずそのまま受け入れる。(で、合ってるよね?)

異動を伝えると、「楽園」での暮らしが大いに気に入っている妻は同行しないという。
妻が同行しないと聞いた時の夫の「こいつマジか」みたいな顔の演技は秀逸。
それで夫が単身赴任を受け入れた途端、「私だって寂しい」「私たちは離れてても繋がってる」と泣く妻を見る「こいつマジか」みたいな顔。

妻は夫が単身赴任後も相変わらず「無関心」で楽園での暮らしを続けようとするが、そう簡単な話ではない。
良かれと思って連れてきた母は「楽園」の環境下に耐えかねて去る。
「ナチスごっこ」をして遊ぶ子供は窓の外で行われる虐殺に思わず目を覆う。
苛立つ妻は使用人を恫喝し…と歪みはあちこちで生まれてくる。

一方の夫はおそらく仕事は出来るんだけど軍人をやるにはナイーブすぎる。
犬や馬を可愛がり、眠れない子供に読み聞かせるなど人間的な一面も併せ持つため、システマチックに大量虐殺を効率化する矛盾に己が耐えられなくなり、精神に異常をきたし始める。

パーティーを俯瞰で見て「どう毒ガスで殺すか考えてた」と言ったけど、あれは本心ではなく、”そう思わなければいけない”という自己暗示、あるいは皮肉のようなものだと思う。だからこそあの後嘔吐するわけで。
夫のそんな繊細さは妻には「もう夜中だから寝る」と一蹴されるわけだけど。

↑複雑な話だから改めてあらすじ書き出してみたけど合ってる?

テーマ、モチーフ、演出、俳優、音楽、全てが一流で素晴らしいのは分かるんだけど、エンタメ作品ではないので「うおおおおもしれえー!!」みたいにはならず。(まあ作り手側もなるように作ってないだろうけど…)

エンドロールであえて断末魔や焼却炉を連想させるような不協和音が爆音で流れたので、この手の映画にしてはエンドロール中の退席が多かった。

ザンドラヒュラーは癇癪持ち女やらせたらうますぎ・怖すぎ。

途中、いきなり現代のアウシュビッツに場面転換したのには最初は困惑したけど、なんというかわざとらしい演出などせずに、黙々と展示品である虐殺の残骸たちを掃除するパートの映像を流されたのは迫力があった。
生活の中で隣り合わせにある死というか。
あのパートたちは毎日の仕事があそこの清掃なので、あの光景もある意味当たり前で、展示品の意味には無関心で作業のように仕事してるんだろうなーと思ったり。

にしても戦争は嫌だね本当に。

オペハイが思ったよりエンタメ映画だったのに対して、こちらは真っ向からの反戦映画だなと感じた。