Few

関心領域のFewのネタバレレビュー・内容・結末

関心領域(2023年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

自分でもなぜだかわからないのだが無数の疑問が湧いた。

どういった理由でこの映画を制作したのだろう?なぜこの歴史的史実を選択したのだろう?歴史的史実を元に映像表現をすることについてどう考えているのだろう?脚本をつくり、俳優をキャスティングし、カメラを回し、編集して多くの観客に観てもらうことについてどう考えているのだろう?そこにどんな責任や宿命をみたのか、あるいはみていないのか?この映像が観客にどう受け入れられると思ったのか?アウシュヴィッツに関する映像を撮流ことについてどう考えているのか?音が凄いと賞賛されているが、この事実、この家庭において音響にこだわることはつまりどういう風に考えているのか?

監督に尋ねたいことが山ほどある。
確かに本作は、台詞はあるがそんな言葉など必要ない映像表現を作り出しており、果敢な挑戦だと思った。観客が(うわぁ、なんだこの家族)と違和感を抱けば抱くほど、世界の出来事全てに関心をもとうとしない、もてない観る者自身をも巧みな音響から生じさせる。素晴らしいと思った。音の連鎖が音楽に聴こえるけれど、エンドロールでは阿鼻叫喚の絶叫にしか聴こえないのも、丁寧につくられた証拠だと思った。

私の隣に、とある男女が座っていた。男性が私の左隣に、女性がその男性の左隣に。エンドロールが流れはじめると、絶叫が延々と繰り返され気が狂いようになるなか、重低音がリズムよく聴こえる。女性は、男性のハーフパンツからのぞく太ももに、指先何本かで4回リズムをとっていた。4回きりだった。うさぎがぴょんぴょんと跳ねるような手つきだった私はその男性の太ももをじっとみた。
私って、いまこういう人と同じ時代に生きているのか。ただ生きていただけの人たちが何人も何人も、命を乞う叫び声をあげた。私はその声を聞いたことがないけど、そうなんだなと想像した。エンドロールにはその叫び声にも似た音が観客を身体をぐるぐる巻きにする。そこに聴こえるリズムに、4回、指先でリズムをとった。その男女はエンドロールが終わると、すっと席を立ち、何事もなかったかのように出口へ向かっていった。そういう人も、いる、でいいのだろうか?私って、この人たちと同じ時代に生きているんだ、と噛み締めながら私はのろのろと腰をあげた。

そこで疑問がさらに強くなった。
この映画が、この世に生まれた意味ってなんだろう。
この映画は凄いけど、アウシュヴィッツ強制収容所の外にある幸せで平凡の家庭を描き、それを観客に突きつけた。しかし、アウシュヴィッツやその家庭に対する批評的な映像ではなかったんじゃない?むしろ、アウシュヴィッツとその惨状をとりまいていた無関心で平然とした人間を酷く映して、観客に投げる。でも観客が家に帰って考えることは、あの映画についてどういう感想を抱くかにとどまりがちな気がする。無論、自ら映画の基となったことについて調べ考える人もいるが、ごく少数ではないか?調べて、考えて、ああ、そういうことがあったんだなぁ…
それで良いわけない。

なぜ、映像表現で、この出来事について、撮ろうと思ったんだ。良い映画かつまらない映画かという意見はさしおいて、アウシュヴィッツの何をも語り得ない映画だと感じた。ただ、私のなかに大きな違和感を植え付けたのは大きな経験だと思う。
Few

Few