tagomago

関心領域のtagomagoのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.2
収容所の中を一切見せることなく、すべて聞こえてくる音だけで連想するに留めている。煙突から出る煙、押し寄せてくる灰、銃声音、不穏な叫びや物音によって直接的な表現は避けられているが非常に暴力性を孕んでいる。また一見、直接的なことやものは言及していないが、服や指輪などの装飾品、美しい花、短時間で多くの「それ」を燃やせるか、意味が分かればおぞましい。

私は人間の良心という部分を少しでも信じたかったのか夫ヘスは内心ではこんなところに居たくないから妻には内緒で転勤を申し出たのではと思ったけど考えが甘かったようだ。暗澹たる思い。妻ヘスは家の外で何があるか知りつつも目先の幸福に飛びついてしまう。というのは人間誰しもがもってる感情というか気持ちというか。人間の脆さも出ている。そして知らず知らずのうちに子どもたちにも影響が出ているし、真っ先に気づいた祖母は帰っていく。

この映画では壁一枚の隔たりだけだが、距離感が違うだけで国境や海にも例えられる。自分自身を切り離して考えたいものだが、そうさせないのはあの現代パートが導入されている点にある。ヘスは健康体のはずなのに体は悲鳴を上げている。ヘスと同じように吐き気が込み上げてくる。普通にこの後日常生活に戻っていいのか分からなくなる。後ろから刺された気分。観る前と観た後では世界の見え方が違ってくることを強烈に意識させる。ミカ・レヴィのスコアは凶悪。
tagomago

tagomago