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ユニコーン・ウォーズのfujisanのレビュー・感想・評価

ユニコーン・ウォーズ(2022年製作の映画)
3.8
何だこの変な映画。でも面白い👍

コミカルでキュートなテディベアとユニコーンのアニメを通じて描かれる旧約聖書の神話をベースとした人類創世の前日譚。

森チャックのGLOOMY( https://gloomy-official.com/ )のように、可愛い熊の見た目と鋭利な爪と血だらけのグロテスクさが両立している本作のテディベア。こちらも負けずに手足は吹っ飛ぶ、内臓はぶちまけるっていうグロテスクさで、人間の醜悪さを表現しています。

一方のユニコーンは女性の象徴として描かれており、エログロドラッグ何でもありの可愛くも醜悪なテディベアたちと森の覇権を争っています。そして、そんな殺し合いを高みから見物している真っ黒な謎の不気味なサル達・・・

本作は、一見可愛いキャラクターアニメの皮をかぶせた、醜悪で残酷な憎しみ合い、殺し合いの連鎖、そして、最も醜悪な存在は人間そのものであるという、強烈な批判性を帯びた社会批判映画になっていました。

最近でいうと「関心領域」の別バージョンとも言えますし、ユダヤ教、旧約聖書ベースの映画としては「ボーは恐れている」よりも分かりやすい作りになっていて、可愛い絵柄にかかわらず、多くのテーマ性を含んだストーリーが特徴。



もう一つの特徴。それは、いろいろな映画のパクリ、いや、オマージュに溢れていること。

個々のキャラクター、特にユニコーン(馬)のアニメーション作画は素晴らしく、細かい首の動きや足の動き、目の表現など、宮崎駿の作画を見るかのような生き生きとした動物描写には目を見張りました。

一方、映像としてみるとどうかというと、” どこかで観たことがあるシーン ” の連続。特に、おそらく日本のアニメが大好きなんだと思いますが、オマージュとパクリのギリギリのラインみたいな感じで、別の意味で面白い映画でもありました。

いくつか列挙すると、

・もののけ姫:最後のユニコーンの血を飲むと不老不死になるという設定がシシ神の首を狙う設定と似ている。森の中に佇むシシ神のシーンや、ユニコーンがタタリ神のような黒い怪物になってしまうところ。

・AKIRA:そんなタタリ神に飲み込まれ、押しつぶされるシーンは、暴走した鉄男の肉体が恋人を押しつぶしてしまうシーンに(似てる)

・フルメタル・ジャケット:誰もが気づく、フルメタル・ジャケットそのものの鬼教官による新兵訓練シーンに

・地獄の黙示録、プラトーン:いつ襲撃されるかわからないジャングルの中の行軍で兵士たちがだんだん狂っていく様は、LSDのドラッグによる幻覚シーンを含めてベトナム戦争の狂気のシーンに

・西部戦線異状なし:塹壕戦での無意味な戦いと命の価値が軽すぎるシーンたち。『戦争は勝ち負けではなく、続けることに意味がある』という人間の狂気性

・オオカミの家:軍による独裁と宗教(カトリック)の強い結びつき。キリスト教のプロビデンスの目のような聖典の表紙に描かれた目玉は、フリーメイソン的でもある

おそらくまだまだあると思いますが、元ネタはなんだろう的に楽しむのもいいかも。ジブリのナウシカにも元ネタがあるように、個人的にはオマージュを批判するつもりはないのですが、さすがに多すぎるかなぁと言う印象でした。

旧約聖書をベースとしつつ、LGBTQやフェミニズムなど、多くの現代テーマを複合させている物語はよく出来ていると思いましたが、映像としてはもうちょっとオリジナル性が欲しかったところです。
(とはいえ、このストーリーを実写でやるとただのB級ホラーになってしまいそうですが・・・)

以上ですが、最近観た映画の中では楽しめた作品でした。
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