ワンコ

愛にイナズマのワンコのレビュー・感想・評価

愛にイナズマ(2023年製作の映画)
5.0
【人であること】

ストーリー展開もそうだが、父親を演じる佐藤浩市さんにやられた感じがする。

佐藤浩市さんはこれまで様々な役を演じ、おそらく、あの役、この役と人によって好みはあるとは思うが、僕は、映画「起終点駅ターミナル」の国選弁護士役が好きで、ただ、今回の父親はそれと並ぶくらい大好きな役柄だった。本当に良い演技だったというか、心に沁みた。この役を、身体が弱ったからなのか、どこかに負い目があるからなのか、弱々しくも、ただ、凛とした佇まいを残して、優しくも強く演じられるのは佐藤浩市さん以外考えられないなと思うくらいだった。

ストーリーは単純だ。

家族が父親からの連絡を受けて再び家族の問題と向き合うのだが、プラスアルファの人物もいる。

もし映画界が、この作品に描かれたような場所だったら、日本映画の浮上は難しいかななんて思ってしまう。
たまに、業界人ふうの方の映画評やレビューを読んで、あんた、もうちょっと社会勉強したり読書したりしなよって感じることは多々あるので、余計、そう思うのかもしれない。
自分で仕事をしていても、いつまで経っても中途半端な人はいるし、有望な人やプロジェクトの足を引っ張る人も多いのは確かに目にするところだ。

見た目は派手だが、実は、人知れず陰で苦労を重ねる長兄。
次兄の、ある意味、形骸化されたルールの中で感じているであろうストレスと、たまに見せる相反する行動。
外面と内面の異なる花子。

父親の表には出さないが、抱え続けた問題と病気。
そして、勇気と忍耐。
ただ、食前に次兄と一緒に祈る姿からは、本当は生きたいと、少しでも長く生きたい、生きるのだという気持ちが伝わってくる気がする。

様々な対比が物語に織り込まれ、花子と、そして、この家族連中と行動を共にするうちに、人間性…感情を取り戻し、亡くなった落合の気持ちとも何処かで向き合い、家族というファクターを自分の人生に取り込んでいく舘という人間の微妙な変化。

前段で佐藤浩市さんについて書き過ぎた感はあるが、家族プラスアルファはもとより、居酒屋の店主も運送会社の社長も、落合も、脳みそが前近代的でいけすかない映画業界の2人も、みんな良かったさ。
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