フジモト

タイタニックのフジモトのレビュー・感想・評価

タイタニック(1997年製作の映画)
4.8
フィルマークスを始める2018年より前に観た作品は、基本的に再鑑賞の際にレビューを書いている。
現時点で未レビューだったので、前回の鑑賞は少なくとも6年前ということになる。

お昼ご飯のあと観始めて現在18:30。
長い。が、一瞬。
初めて観たのは石田彰の吹替。
今でも吹替ぜんぶ憶えてるんじゃないかと思う。

改めて素晴らしい傑作!
単なる恋愛映画だと思っている方が、まさか今となってはいないだろうが、もし万が一まだいらっしゃるようならば、是非とも観てほしい。

【恋愛映画として】
この映画を構成する数々のパーフェクトな要素の中で、身分違いの恋というテーマは他に比べるとわたしにはピンと来ないものではあるが、それでも昔のわたしに相当ハードルの高い恋愛観を植え付けたことは間違いない。
未知の危機にジャックほどの頼り甲斐を発揮する男性は流石に映画のなかだけの存在だと思うけれど、「この人を信じて死ぬならしゃーない」と思える男性という、今となってみれば無理めな理想像をジャック(と石田彰)はわたしに残していった。

【パニック映画として】
この作品についてもっとも驚嘆すべきなのがこの点だと、わたしは思う。
「船の沈没」という事故が思い起こさせる恐怖が、この映画の鑑賞前と後ではまったく異なるはず。
「溺れる」ということは想像できても、寒い、痛い、水の力に勝てない、他人が邪魔をする、そのすべての結果なす術もなく「溺死」「凍死」。
もう何十回も観ているはずなのに、毎回息苦しくて鑑賞後ちょっと疲れているほど。
いつも船尾の沈没前はジャックの合図で一緒に息を吸っています。

【音楽】
これはもちろん言うまでもなく素晴らしいのだけど、わたしがいちばん好きなのは三等船室の客やボイラー室の職員たちと騒ぐシーンのアイルランド音楽。
イーリアンパイプスや6/8拍子を認識したのはもっと後だったけど、その楽しさを知ったのがこの映画だったと思う。
「サウサンプトン」も好き。

***

総じて、詰め込んだ要素の多さと尺の長さにも関わらず無駄なシーンがない映画だと改めて感じる。
脇役の描写や一瞬のシーンがとても細やかなのが好きだ。
新興成金の「不沈のモリー」が振る舞いは下品で嫌われているけど、本質的には高潔な精神を持った女性であったり。
下衆だけど、最後までローズのことを諦めきれないキャル、危機的状況であってもある程度までは主人に付き従うしかない従者たち。
恐怖と寒さで表情をつくる余裕もない状況下で、名前も知らない隣の人と数秒間目が合ったりするシーン。
そして、いきなり遠景カットが入ったりすると、深夜の大西洋のど真ん中でなんかちっちゃい生き物が集団でワーワー騒いでパニックになっている様が、まるで滑稽なようにも映る。
急に静かになって、巨大な鉄の塊が軋む音が響く不気味さ。
個々人のミクロなシチュエーションと、そのすべてを飲み込んでしまう強大で無情な海の力の対比がすごく恐ろしい。

なおかつ緊迫感のあるシーンでも映画としてのエンタメ性を忘れない。
キャルに唾かけたり、斧の練習、三等客をぞんざいに扱うスチュワードをトミーが殴るシーン、「たとえ死の谷を歩むとも……」「早く歩んでくれ!」とか。
海に投げ出されたローズにしがみつく男をジャックが殴り飛ばすシーンなんか3カメになるからね。
漫画「バクマン。」で言われていた「シリアスな笑い」ってこういうことなんじゃないかと思う。

めちゃ長くなったけど、この状況で自分ならどうする?という問いを、もちろん命の危機だけでなく、人生の岐路や何かに迷うとき、あらゆる状況で投げかけてくれる素晴らしい映画だなという感想でした。

泳げてもこの場合あまり意味ないけど、万が一の時の生存確率を1%でも上げるためにやはりきちんと水泳を習っておくべきだろうか。
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