あんじょーら

乱れるのあんじょーらのネタバレレビュー・内容・結末

乱れる(1964年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

衝撃的な出会いになってしまいました。おいそれと簡単に手を出すような映画ではない事は間違いない、非常に完成度の高い素晴らしい作品、様々な人が強く成瀬監督作品を推すのも納得の、いやそれどころか驚愕の作品でした。まさに、ヤラレタという印象を持ちました。



敗戦後の静岡に近い田舎町の酒屋を切り盛りする礼子(高峰 秀子)は長男の嫁であったのですが、その長男は戦争から帰らず未亡人です。酒屋に暮らすのは、母しず(三益 愛子)と次男の幸司(加山 雄三)ですが、長女(草笛 光子)と次女(白川 由美)も嫁いで家を出ているものの近くに住んでいます。近所にはスーパーマーケットが出来て、小売り商店は憂き目を見ている中、幸司はスーパーマーケットの店員ともめごとを起こしてしまい・・・というのが冒頭です。




いわゆる家族ドラマであり恋愛ドラマなんですが、個人的に好きなジャンルの映画ではないです。が、もう、ものすごい傑作でした。そういうジャンル分けというのがいかに意味の無い分け方なのか?というのを感じさせてくれました。多分、良い映画とそれ以外しかないし、この「乱れる」は間違いなく良い映画である、としか言えないくらいの作品でした。


いろいろ書きたい事はたくさんあるのですが、この映画は(多分どんな映画、音楽、読書、演劇、バレエ、絵画鑑賞であっても)先入観なく観ていただくのが最も効果的であり、作品そのものを楽しめると思います。ので、私の感想なんかもうどうでも良い、とにかく時間は無駄にさせないので、観てください、としか言えないくらいの、非常にサスペンスフルな、そして人間ドラマの映画です。


おそらく私よりも女性である方々にはもっと衝撃的に響く映画だと思います。また、中には男性にとやかく言われたくない、という感想を持つ方がいても不思議ではないくらいの感情的な揺さぶる力を持った作品です。


愛情というものが気になる方に、家族というものが気になる方に、特に女性の方に強くオススメ致します。知らなかった私が無知なんですが、とにかく凄く衝撃的で素晴らしい傑作映画です。






ただ、個人的には、やはり感想にまとめることで、文章にすることで理解が深まると考えているので、いつも通りのアレ行きます。





アテンション・プリーズ


ネタバレ含む、勝手な私個人の感想です。どうか様々な意見のひとつと考えていただけたら幸いです。そして、できるだけ多くの人がこの映画を鑑賞されることを強く望むものです。本当に素晴らしい大傑作だと思います。











高峰さんの表情の多彩さと細かさの凄さにまずびっくりします。脚本の練られ方もこれ以上ないくらいの完成度だと感じました。僅か98分の作品なのに、こんなにも丁寧な作品なのに、そして体感速度はとても早い鑑賞であるのに、とても情報量の多い、細部にまで気の配られた作品です。ラストの衝撃も素晴らしいです。私はしばらく眠れませんでした。


とにかく丁寧な描写で、たしかにバストショットでの観客に向かっての映像の繰り返しのように見えなくもないのですが、飽きさせない、そして細部に奥行を感じさせる配慮があると思いました。室内と野外の対比、光と影や、狭さと広さを特徴的に感じさせてくれてますし、だからこそ、後からいろいろな場面を思い出すことが容易であると思います。とても細かな配慮がなされた作品だと思います。




高峰さんの困惑、が主題と言ってもよい作品ですから、様々な事が起こります。最初は確かにスーパーマーケットの進出という時代の流れに困惑していたかと思えば、徐々に自らの身の振り方の悩みになり、そこに驚くべき義理の弟からの告白、悩みに悩んだ挙句、規範を尊重し、自ら身を引く事を考え、家族にさえ配慮した言葉を選んで家を出てからの、義弟との車中の距離で表される心の距離の縮まり方。そして朝日を浴びた義弟の、子供の頃から知っている子が大人の男になった嬉しさや驚き、そして今2人でいるという現状を改めて考えた事での涙なのではないか?と思いました。


ただ、これがほぼすべて説明の無い描写で行われているので受け手の解釈の自由度が極めて高い作品だと思います。実際に起こっている出来事は淡々たる日常のドラマです、確かにあまりない出来事かもしれませんが、映画の中では当然のドラマだと思います。しかし、そこに丁寧で心情を察することが出来るような余韻を持った演出を積み重ねられると、とても自由度が高い受け手のある意味能力が試されるような映画だと思いますし、逆に、高峰さんに感情移入して感情の流れるままに共感することもできるような、そういう意味での自由度の高さを保ちつつ、完成度も高いという不思議な作品になっていると思います。



そして圧巻はこの電車での2人の距離が縮まった後に起こるドラマだと思います。ほぼここまでを導入部としても良いかのようなドラマチックな展開が起こります。





高峰さんの、次の駅で降りましょう、嬉しかった、宿に泊まる、指にこよりを付ける、堪忍して、の一連の言動は、とても女性的な感じがします。首尾一貫したものではないけれど、しかし、その場の純粋な心の軌跡だと感じます。確かに心の乱れを感じさせますし、とても誠実な感情の揺れを感じるのです。その感情の揺れを受ける加山さんの態度も、決して悪いものではなかったと思いますし、自らの意思であったのか?事故であったのか?は判然としないのですが、ここに至り、高峰さんの心の乱れは最高潮に達するのです。しかも、窓辺に佇み、温泉宿の湯煙の合間に見える担架から伸びた指先に、あのこよりを見つけてからの、走る高峰さんの表情はまさに圧巻だと感じました。映画の切り方も素晴らしいと思います。


ただ、男である私がこのように感じた事を不快に感じる方もいらっしゃるかもしれません、全然違うよ、とお叱りも受けるかもしれませんが、非常に女性がリアルに描かれていると感じました。


言い訳めいていますが、女性や男性という性別の差の前に同じ人間として~という風に考えていた時期もあったのですが、私もオトナになりつつあるのか、考え方が変わり、建前として確かに同じ人間だけれど、全然別の生き物とも言えるくらい違う部分が大きいと思うようになりました。だからこそ面白い、とまではまだ言えないです、あんまり違いに面白さを感じられないです、私は、ですが。



女性が男性を見て馬鹿に見える事、多々あると思いますし、その通りでしょう。ですが、全然別の側面に於いて、男性から見た女性の馬鹿な面というのもあると思います、あくまで性別の傾向、という意味で、すべての男性が男性の馬鹿さを持ち合わせているわけでもありませんし、女性だってそうですが、しかし、そういう傾向は認められる(個人的経験則として)と思うのです。



この映画の中に出てくる長女の酷く冷静で単純でありながら確かに的を得た考えは、誰かが口にしなければならないとしても、もう少し言葉を選んで話されるべきのように感じますし、次女のその話しの乗り方、あるいはその家族会議を終えてからの家を出るまでの薄情さ、長女、次女という家を出た身でありながら種々の事柄に口を挟み込みながらも責任は回避、という部分に私は女性的な傾向を感じます。この時の長女役である草笛さんの演技が素晴らしく生々しいです。そしてちゃっかりその雰囲気に乗る次女の白川さんの笑顔がチャーミングでありながらも恐ろしさを覚えます。そして母親役の三益さんのおろおろする表情の真に迫る表情も凄いです。こういった脇のキャラクターの描き方までもが女性的な特徴を出しているところにも、よりリアルな感覚を受けました。



人間ドラマとしても、映画としても傑作だと思いますし、他の方の感想(特に女性の)感想を聞いてみたいです。多分女性はこういう映画見て感想なんて言うのが野暮、聞くのも野暮、というような気もしますが。



(なんか、ものすごく、女性全般を敵に回した気がしますが、正直な感想なんです・・・)