TakuoAoyama

四月になれば彼女はのTakuoAoyamaのネタバレレビュー・内容・結末

四月になれば彼女は(2024年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

主題歌「満ちてゆく/藤井風」

サイモン&ガーファンクルの同名曲からインスピレーションを受けたタイトル。四月に出会った彼女は時が過ぎ、去っていってしまう歌。

ストーリーや演出は正に既視感有りだが、この話のフォーカスはそこではなく、登場人物の台詞や表情にある。

印象的な台詞がいくつか。

大学の写真部の先輩、後輩として出会った2人。「何を撮りたいの?」という質問に対し、藤代俊(佐藤健)の「ポートレート以外」というネガティブな回答に対し、伊予田春(森七菜)は「雨の匂いとか、街の声とか」と二次元に収まらない五感を表現したいと答える。それは正に2人を引き裂く切欠にもなってしまった父親譲りの写真の撮り方。

「愛を終わらせない方法、それは何でしょう?」結婚式を目前に控えたフジの婚約者坂本弥生(長澤まさみ)はフジに問い掛け、4/1の自身の誕生日に忽然と姿をくらます。

まるで幸せには限界があると話す「リップヴァンウィンクルの花嫁」の真白(Cocco)のように、楽しい時や幸せな時に悲しくなってしまう性の弥生。

問い掛けに対する当時の彼女の答えは「手に入れないこと。」という後ろ向きな答えだが、フジの元カノ春の手紙を読み直したことで、何かを悟り、春に会いに行く。そこには病気と闘いながらも前向きに第2の人生を踏み出そうとしている彼女がいた。

「人間は言葉があるからだめ。」
「愛することをサボった。面倒くさがった。」

昔2人で選んだペアグラス。割っしまったグラスを手際良く片付けるフジを見て思う。洗面台の排水口が詰まり流れない水を見て思う。おやすみを告げ、2人別々の部屋に入ってふと考える。

いつからこんな風になってしまったのか。あの頃の気持ちはどこに行ってしまったのか。

対するフジはどこか冷めてて、格好悪くもがくことを避け、成り行き任せの人生。「自分のことが一番分からない。」と言われるが、精神科医なのにも関わらず、自分がどうしたら良いのか、パートナーが何を考えているのかが分からない。
友人のゲイのタスク(仲野太賀)に対しても「お前は気楽で良いよな〜。」と言ってしまう始末。そういうとこ。

ボリビアのウユニ塩湖、チェコのプラハ、アイスランドのレイキャビク。フジと行くはずだった各地を訪れ、なぜ春は10年前の初恋の人に今更手紙を送ったのか。そう、それは紛れもなく自分自身のため。

それは鏡面の湖に映る自分を見つめるように、時計台が刻んでいる過去の時間を動かすかのように。彼女は例え病気だとしてもポジティブに自分のために歩みを進めようとしていた。

美化された過去の記憶。
大切だった人、忘れられない人、愛した人。

当時の自分の新鮮な気持ちやその熱量を回想し、今そばにいる大事な人に向き合う。一見女々しくも思えるが、人間的で前向きなメッセージのようにも思えた。

人生誰にでも有り得ることをドラマティックに、映画的に。
TakuoAoyama

TakuoAoyama