【失われた時の物語】
※fans voice様の試写会にて鑑賞
ラストで一気に心を持ってかれてしまった…。
実は私は"エリセ"の作品はほぼ初めてに近い鑑賞だったのだが、エリセが"30年の沈黙"を経て、"映画と人間の記憶"についてここまで深く語りかけた作品は初めてに近いのではないかと感じた。まぁ、それは私の妄想に過ぎないのだが…。
"失踪した俳優の捜索"を通じて、映画の歴史と人間の"記憶の流れの儚さ"を169分と言う極めて贅沢な時間をかけて追っていくという物語なのだが、上映時間が半分に感じてしまうほど、終盤にかけてその儚さが増大し、特に"ラストの締め方"は私の中で極めて大きな衝撃を与えた、最も"映画らしい終わり方"をしてくれた作品だった。
そこにはきっと、エリセの30年の間に味わった"失われた時間"も関係してくると思う。そのエリセの失った時を復元するかのように、本作でそれが表現されていた。
"アナ・トレント"がすっかり貫禄がついていて、より美しさが増しているのが驚きだった。"マノロ・ソロ"や"ホセ・コロナド"の非常に味のある、元映画監督と元俳優の演技であった。
映画が失う時間、人間が失う時間…二つの儚き物語が交差して紡がれる本作はまさにエリセの集大成的作品であり、映画が持つドラマ性の醍醐味を感じる事ができた作品だった。
作中に出てくる"劇中映画のワンシーン"も、"ミゲルとフリオ"が失った友としての時間や、フリオを知る周辺の人々の悲しみなんかも表現されていて隙がない。
これは劇場で見る価値がある作品だなと感じた。